1 蛟龍ー600/JL-600について
2008年に北京で開かれた50年間中国航空工業成果展覧会の2009年度からの研究項目パネルに「蛟龍ー600/JL600」という飛行艇のイメージ図が出されました。
中国航空工業集団は、2月15日、珠海(香港の西)に航空機の設計・組立工場を建設すると発表しました。総額30億人民元を投じて、4年内に「蛟龍ー600/JL600」の初飛行を実現させる計画だということです。
また、「中国航空報」によると、海軍副司令の張永義氏が3月6日湖北荊門の中国航空工業集団第605研究所を訪れて、所内見学の後演説を行い、JL600について、次のように語りました。
国が新型消火/救援水陸両用飛行機開発プロジェクトを許可した(この表現は不確かです)が、中国は、軍・民ともに使える水陸両用飛行機の研究開発を必要としている。
これは、海軍が初めて公的にJL600の開発を肯定したものです。ただし、原文をみる限り、軍が開発費用
を出すとは言っていません。恐らく軍は他機種に比べ、救難用途に限定され、かつ少数機でコスト高になる救難飛行艇に軍事予算を割きたくないということだと思います。
交通部の海上救難、公安部と林業部の森林消防、海洋調査、魚政、海監などの部門も飛行艇を購入する可能性があるため、民間機として機体開発終了後、軍が救難機バリエーションを購入するつもりではないでしょうか。
今年1月8日、中国国内の10の銀行が、
今後10年間に中国航空工業集団公司に航空機のエンジン・計器・操縦システム・機体材料開発などに合計1,760億人民元
(約120億円)の融資を行うと発表しました。政府の了承もしくは指示によるものであることは明らかです。
日本の新明和US-2の消防飛行艇型開発とは雲泥の差があります。日本がもたもたしているうちに、波高3mでも離着水できるSTOL性能などを応用されて世界中に売り込みを図られる公算が大だと思います。
新明和は、試験機を作ってテストを重ね、日本とFAAの厳しい審査を受け、その上で各地に販売と整備の拠点を設けなければならないことを考えると、1機あたりのコストは膨大なものになり、国として行動する中国には到底太刀打ちできそうにありません。
残念なことです。
2 水轟五型/SH-5について
水轟五型/SH-5は哈爾浜飛機製造公司が開発し、1976年に初飛行しましたが、文化大革命にぶつかって生産は進まず、量産機は4機(6機説もある)にとどまりました。
水轟とは水上爆撃機を意味し、本来は空対艦ミサイルを搭載する攻撃機でしたが、ミサイル開発が遅れたため、通常爆弾もテストされましたが、結局、対潜哨戒機として現在に至っています。
海軍北海艦隊の本拠地である青島に配属され、4機で一個飛行団を編成しています。既に、機体の腐食や機器類のトラブルが頻発し、あまり評判はよくないそうです。
SH-5の写真は、次のサイトで見ることができます。いずれもBBS飛揚軍事論壇より
@ SH-5の離水シーン http://www.fyjs.cn/bbs/htm_data/27/0901/171320.html
A 同じくSH-5の離水シーン、08年年末に行われた救難演習の時撮ったものということです。 http://www.fyjs.cn/bbs/htm_data/27/0901/171343.html
B SH-5#3試作機 http://www.fyjs.cn/bbs/htm_data/27/0901/170780.html
この機体はもともと湖北のテスト現場(製造は哈爾浜ですが、組み立てとテストは湖北荊門で)に置かれ、98年頃は写真の場所に移されました。
この場所は、中国航空工業第一集団昆明西山療養院(注)ですが、敷地が不動産会社に売却されたため、機体がスクラップされる危機にありました。しかし、写真発表後に飛揚軍事論壇管理者の一人が北京の中国航空博覧館と連絡を取り、博覧館は機体の現状確認と受け入れ意向を表明したということです。古い機体なので保存はかなり難しいことと思いますが、できる限り手入れをして保存してほしいです。
(注)中国航空工業集団は1999年に第一集団と第二集団に分かれ、08年には再び一つに戻っ
ています)
参考
中国の空軍と海軍航空兵の組織
基本単位 (例外や運用時における編成替えもある)
戦闘機・攻撃機 4機で中隊 → 2〜3中隊で大隊 → 2〜3大隊で航空団 → 師団
輸送機・哨戒機・爆撃機 4機で航空団 → 2〜3航空団で師団
ヘリコプター 6〜8機で中隊 → 3中隊で大隊 → 3大隊で航空団 → 師団
日替わりメモ090407番
から転記
○ 日本は飛行艇分野でも中国に追い抜かれる
090228番に下記のように書きましたが、中国からのJL600の情報によれば、そんなのんびりした観測ができる状況ではなく、世界に冠たるものと思っていた日本の飛行艇技術は、中国に追い抜かれる可能性大ということに愕然としました。
いずれにしても、中国が飛行艇に重きを置きはじめたのは確かなようです。あるいは世界の飛行艇潮流に変化が出てくるかもしれません。新明和はうかうかできませんね。個人的には、US-2を民間機に変更して、新明和工業が救難艇や消防艇として広く海外へ売り込むことができるようにしてやりたいです。もちろん国内での運用は海上自衛隊から海上保安庁へ移管です。
新明和がホームページに消防飛行艇について書いていますが、どう読んでみても商売の見通しはゼロに近いものであり、孤軍奮闘の同社に痛々しい感じを受けます。
http://www.shinmaywa.co.jp/ir/key_interview.htm
また、090301番にも次のように書きました。
軍事はともかくとして、政府は今こそ三菱MRJを国家プロジェクトの柱に位置づけて、開発と販売体制を強力に支援する時です。トヨタ1社で疲弊してしまった中京経済に活を入れてやりましょうや。それが、日本の国際的地位を押し上げる特効薬になること必定ですけどねえ。
三菱MRJのところに、新明和消防飛行艇を加えてもいいのです。それには二つの意味があります。ひとつは、川西〜新明和と発展してきた飛行艇技術を日本固有の財産として守り育てること、もう一つは世界不況における国内需要の喚起ということです。
「中国航空工業集団公司に航空機のエンジン・計器・操縦システム・機体材料開発などに合計1,760億人民元
(約120億円)の融資を行う」と銀行が表明した裏には、国内経済に活を入れる景気対策であるとともに、航空分野での世界覇権をねらうという一石二鳥の考えが象徴的に匂ってくるではありませんか。
定額給付金やつなぎ融資や高速道路割引や贈与税減税や環境事業で最大の景気対策だと威張ってみたり、政治資金がどうとか解散がどうとかチマチマしたことに明け暮れているうちに、頭の上をミサイルが飛んで行って大騒動をしている今の政府とマスコミには、中国が着々とかつての日本の地歩を奪っていっている姿が見えていないのです。
最大の景気対策及び雇用対策は、公共事業の拡大と工業への底入れであります。
このままでは、技術立国日本は、少なくとも航空分野に於いて消滅するでしょう。もう消滅したか?
三菱も新明和も大赤字を出して航空事業が会社の足を引っ張る前にMRJと消防飛行艇をやめた方がいいですぞ!
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