ヒコーキマニア人生録目次 

図書室36 掲載2007/08/24

 

買って損はなくなった航空情報 その10月号雑感

評者 佐伯邦昭

 

 

 書  名 雑誌 航空情報 2007年10月号

 
 発  行 株式会社酣燈社
     
 定 価 1350円

 

 
 
 

  いわゆる戦後航空情報に育てられた世代がここ10年の航空情報の堕落ぶりを嘆き、このコーナーにおいても度々取り上げてきましたが、西尾氏が編集長になって漸く改善の兆しが見え、更に品田照義編集長 に交替して更によくなりつつあるように思われます。

 今週に店頭に並んだ航空情報、 航空ファン、エアワールドの3誌を手に取ってみて、すくなくとも航空情報は買って損はないなという感じを受けました。

 雑誌編集の当たりはずれは、何をどのように誌面に盛り込むかにによってきまりですが、航空情報の今月号は「特集 ボーイング787 DREAM LINER」及び「防衛省技術研究本部 次世代に向けた技術研究を公開」の2本で、実に今日的なタイムリーな企画で他誌を圧倒しました。

○ 特集 ボーイング787 DREAM LINER

 ボーイング787 DREAM LINERの派手やかなロールアウについては、A380と21世紀の旅客機界を争う幕開けであり、かつ、機体製造の35パーセントを日本が受け持ち、全日空がトップを切って大量50機を発注したこと等々、日本航空界にとってもビッグイベントでした。リアルタイムでその式典を見た日本人の一人(下記日替わりメモ転記参照)として、巻頭を飾る佐藤真博さんの好レポートに改めて感動した次第です。

 続く菅忠さんの787に至るボーイングの紆余曲折の歴史と機体の新機軸など個別解説は、やや文章にまとまりを欠くものの、787が世界の航空会社に受け入れられるベストセラー商品になった理由がよくわかります。早く乗ってみたい気分にさせる一篇です。

○ 防衛省技術研究本部

 次に、「防衛省技術研究本部 次世代に向けた技術研究を公開」は写真と図版を多用した18ページに及ぶ紹介記事です。防衛省関係への踏み込みは他社がまねのできない酣燈社の独壇場であります。それは、一面で、防衛省のPR役を仰せつかっているという危険性を持ちます。この記事も、編集部執筆となってますが、失礼ながら、忙しい現編集部に防衛省技術研究本部のすべてにわたって取材し執筆できる余裕があるとは思えませんので、技研内部の人の執筆、若しくは既発表資料をうまく編集したに過ぎないでしょう。

 従ってジャーナリストとしての突っ込んだ記事にはなっていないものの、PX、CXの実用機開発から戦闘機のステルスやスピンや、無人機開発など将来にわたっての基礎研究の全貌は、へー、ここまでやっているのかという意味、そして大量の写真とともに好企画でした。

○ The Monthly News

 官庁・防衛・軍事・メーカー・航空会社・レースと5項目に分類し、従前のニュース欄とは違って映像を多用した編集です。従来なら数行の紹介とグラビアページの写真を照合しなければなりませんでした。今月は関空の救助救難訓練、中越沖地震での航空機の活躍、全日空のパンダ機などが大きく取り上げられていますが、無数に飛び込んでくるニュースのどれを取り上げるのか、どれを落とすのかは大変な神経作業だろうと思います。読者は、編集部の独断と偏見のみを信じ込まされるのですから、ご苦労ですがまだまだ神経を使っていただきたい。

 それと、事故ニュースが姿を消しているのは問題です。航空史を研究する者には航空情報の事故ニュースを頼りにする(何十年も前の情報誌のことです)場合が多いということを忘れないでほしいです。

○ Topic of Monthly

 F-2参加のコープノース グアム2007、304飛行隊30周年記念式典、スターフライヤーの関空招待フライト、コウノトリ但馬空港フェスティバル07 いずれもカラーでいいですね。

 


さて、これからは、辛口評論です。

○ 空飛ぶホワイトハウス 

 執筆者は日本語学校へ行って一から勉強しなおしてほしい。文章の起承転結がでたらめです。読みずらく、よく分らない箇所が多くて腹が立ちます。出版社のイロハのイの字の部分で失格です。

○ 歴史を歩んだエースヘリコプター

 いい記事なのに、不当に活字と写真が小さい。翻訳や参考書を見ての執筆が多い中で、体験をもとにした回想に出合うとほっとします。こういう面にはどんどん光を当てて行って貰いたいです。なお同企画が紙と木の航空クラブにあります

○ 例の志鳥學修コラム

  「連立与党の大敗北で 〜  自衛隊における情報管理・防護体制の改善計画が大幅に停滞するであろうことが予測されている」自衛隊もなめられたもんです。誰がそんなことを予測するのでしょう。軍隊における情報管理などというものは政治を超越したものではないのですか。 酣燈社は、この誰でも知っている事柄を極めてオーバーに自己流にふくらませて威張っている先生の記事をいつまで載せるのでしょうか。

○ 細かなことですが

 △ p4 全日空(以下ANA)と書きながら、その後に出てくるのは全日空の文字ばかり。何のための省略かな?

 △ The Monthly News p52ではANA p53では全日空 ナンバーページは全日本空輸。とにかく一貫性がないです。

 △ p41 写真(07)→写真に番号などついていない。震災地への米大使館提供のクーラーがどこにあるのか、写真を探すのに一苦労。

 △ The Monthly Newsなどの一部には「品田照義」のサインがあるが、その他は誰が書いたのか不明なものがほんとんど。基準を設けたら如何か。

 △ 写真のキャプションに本文を丸写した長ったらしいものが多く、これは徹底的に整理してみる必要がある。

 △ 「防衛省技術研究本部」の記事はバックが黒で、小見出が赤、本文が明朝体の白で、高齢者にはとても読みにくい。ゲラ刷り段階で目の弱い読者に適するかどうかを検討してほしい。

 △ p122 風貌→風防

 △ p129 DVD YS-11 プライド オブ ジャパン 「本ソフトの部隊となった広島西飛行場」 部隊→舞台  (当方にも旧広島空港時代のYS-11の写真提供の依頼がありましたが、断っているので関心があります。) 

 △ p132 編集後記の(み)さん 缶詰編集の徹夜作業の連続で編集後記のネタさえ出てこないといううらみつらみはゼニを払っている読者には関係ございません。どうぞ会社の内部で解決してくださいね。 東京都労働局がこれを見たら調査に来るかも知れませんぜ!


 

考え方の違いを学んだこと 2007/07/10〜11 日替わりメモから転記

 シアトルで行われたボーイング787 ドリームライナーのロールアウトイベント において、全日空山元社長のビデオ挨拶が済むと会場で山元氏が紹介され盛大なスタンディングオペレーションが起きました。久しぶりに日本人の存在感を示してくれました。

 セレモニーが始まって間もなくSUBARU KAWASAKI MITSUBISIの各工場から作業服姿の人がメッセージを中継されました。また、既に677機の注文を受けている世界47か国の映像紹介では、真っ先に日出ずる国日本の日の出が現れました。機体の35%を日本が受け持っている上に、全日空がファーストカスタマーとして50機を発注済み、日航も35機と続いているのですから当然のことなのでしょうが、イチローや松坂や斉藤だけではない、テクノロジー ジャパンをグローバルな位置で久しぶりに確認できたひとときでした。

 これが日本主導ならいうことはないのだが、といったケチなことは言いますまい。素直にアメリカとボーイングに脱帽です。

数々のキーワード
 夢の創造 新しい時代の幕開け 歴史的に重要な日 次世代航空機 グローバルパートナーシップ ワーキングツギャザー 最先端の航空力学 今までのどの飛行機とも違う 軽量 燃費20%削減 革新的なデザイン 環境にやさしい ノンストップフライト 経済性 インターネットを通じて数百万人がこのイベントに参加 世界を縮めるコミニュケーション技術  等々…
 ライブ中継を見ていて、いろいろと散りばめられるこれらのキーワードが決して誇張ではないことが分ります。

 たしかに史上最大のヒット商品(山元社長)となる優れた旅客機が出現したのでしょう。しかし、ボーイング社の自信に満ち満ちたこのロールアウトセレモニ―は、単に革新的な旅客機が出現したという意義だけでとらえることができません。ウイチタの社長が発した ” 多くの国の人々との作業の中で、文化や考え方の違いを学んだ ” との言葉がドリームライナーのすべてです。

 国の垣根を越えて世界を一つに結ぶのは航空路だけではない、飛行機製造のスタートラインから垣根がなくなっているのだ。
 もう、これ以上言葉を続ける能力がありません。是非ともライブの日本語版を見てください。http://787premiere.newairplane.com/

 13年前に同じ場所で、ボーイング777のロールアウト式典に招待された全日空の浅倉博さん、あなたが築いたパートナーシップが今や世界70社以上に広まったことを、天上から見ていますか。図書室18参照 

続 考え方の違いを学んだこと グローバルパートナーシップ
 
昨日の日替わりメモは、ボーイング社ホームページのライブ映像を見ながら同時進行で書いたものです。日本語版でいきなり 「世界45か国70社以上のグローバルパートナーシップ 」 あるいは 「全日空、日航、三菱重工 川崎重工、富士重工の社長や会長など多くの来賓が駆けつけてこの様子を見守っています」 というナレーションに大きく動かされて、あのような文章になりました。

 それでいいのかどうかと思い、その後で英語版をじっくりと見てみました。1万5千人もの参加者という盛大なロールアウトセレモニーは、およそ日本では考えられない規模であると同時に、五輪開会式にも匹敵するようなすぐれた演出に再び感動しました。

 日本でやれば、演壇やスタンドマイクがあって開会挨拶、社長挨拶、行政など来賓挨拶云々と退屈な原稿読みが続いてお決まりのテープカットで終りというところですが、ボーイング セブネイティセブン(787がそのように聞こえました 全日空山元社長のナナハチナナの発音の泥臭いこと)のプレミエル(premiere 初演)は、全く退屈させない流れるような式典、式典というよりも一流の芝居を見ているような感じでした。

 機内の特徴を紹介する映像には、ピアニストの演奏つき、そのピアノはYAMAHAのロゴがくっきりと見えて、日本人にはより印象深いです。

 どういう形でセブネイティセブンが姿を現すのだろうかと思っていると、発注側のスチューワーデスが各社機内制服姿で大型スクリーンの前に並び、後ろを向いた途端に、大型スクリーン(実は格納庫扉であった)がしずしずと開いて、その前へゆっくりと機体が牽引されてくる、場内の人たちが機体のそばへ出て行くという筋書きです。

 とにかく、グローバルパートナーシップ による新鋭機をどのように披露するか、世界数百万のライブ閲覧者にどのように感動を与えるかを練りに練った演出には、ほんとうに驚嘆しました。貧乏人の私は、このセレモニーだけで単発機が5〜6機買えるくらいの経費を掛けているのではないかと心配しますが、1機150億円として640機分、9兆6千億円、今の段階でこれだけ金が入ってくる計算ですから、銀行もだまって貸してくれるのでしょうな。嗚呼!