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掲載03/09/29
 

 

ヒコーキマニア人生録 その3

側面図 −中心線の話

湿式コピーの時代

  1960年代前半のオフィスには、万年筆にかわってボールペンが、カーボン紙にかわってPCB使用の複写紙が、筆にかわってマジックインキやサインペンが、紙縒(こより)にかわってMAXホッチギスが、手刷り謄写版にかわって輪転式の謄写印刷機が、そして湿式コピー機が、木造の机や書棚にかわってスチール製品が、白熱電球にかわって蛍光灯がというように次々に環境が改善され、合わせて事務改善運動が熱病のように広がったのでした。

 中でもリコピーの名で一世を風靡した湿式コピー機の登場は下級職員にはありがたかったですね。あの骨の折れるガリ版印刷にかわって、薄い紙に鉛筆やボールペンで書類を作成し、感光紙に重ねてローラーに通し、薬液の中をくくらせてやると出来上がりです。

 もちろん、広島航空クラブニュースにも採用しました。まず表紙に使ってみました。右のHAC-22はそのひとつです。謄写印刷にも高度な技術があって塗りつぶしや多色刷りも可能でしたが、手描きの簡便さに較べたら雲泥の差です。湿式コピー機の出現で私もヒコーキの絵や図面を画いてはコピーしたものです。(器械はお役所のを使わせてもらいましたが、感光紙は持ち込みですよ。念の為)

 そして、本文はタイプ謄写印刷を外注しました。コピーでは両面複写ができないのと、時間がかかるという欠点があったからです。他 県のクラブでは十数ページをすべて湿式コピーという機関誌もありましたが、例えばB4二つ折りで20ページものを50部つくるとすれば、B4用紙500枚を器械に通さなければならず、今のトナー式複写機のようにボタンひとつでというわけではないので、大変な時間 がかかる上に、製本すると分厚くなって郵送費も高くつきました。これでは長続きしません。

 

鼻水垂らしたファントム

 そんな中である号の表紙にF-4BファントムUをスケッチしてのせたところ、機首が鼻水を垂らしているようだと酷評されたことがあります。表紙はもっと上手な人に描かかせろと噛み付かれたりもしました。とんだところで不器用が暴露です。(その絵は確かに恥ずかしくてここへも載せられません。)

 また、マーキングや三面図についても、厳しい注文がつくようになります。知りたい資料が決定的に不足していた時代のことですが、熱心なマニアは外国の文献を漁り、高価なロットリング(ドイツ製)の製図器具を備えたりして、プロ顔負けの図面を作っていました から。

 関東に潔癖すぎるくらい完全主義の某マニアがいました。彼は、例えば航空雑誌に毎月顔を出すK.H.さん作のF-4の図面について「あの設計 図では絶対に飛べないし、飛べば墜落する」と断言し、雑誌掲載の図面を原図にして絵を画いてはならないと私に厳命したくらいです。

 

中心線について

 下図は、故長久保秀樹さんが高校生のころ私にくれた手紙の一部です。中心線と翼の関係などをわかりやすく画いています。彼はヒコーキ音痴、図面音痴の私を懇切丁寧に指導してくれました。大学卒後雑誌などで活躍していましたが、大成を前に逝去してしまったことが惜しまれてなりません。その次の世代の航空ファン三井一郎編集長らががんばっているのが救いですが。

 飛行機の中心線という概念は上田新太郎さんの教示もありました。彼は当時の雑誌に中心線の大切さと主翼の断面は翼端と付け根では異なるものが多いから両方画くべきだといった投書を送っています。

 そんな助けを受けながら、私が方眼紙に画いたF-86F-40の側面図が残っていました。試みに赤で中心線を入れてみましたが、どうもしっくり来ませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 飛行機の設計というものは、よほどヘソの曲がった科学者でない限り、まずは水平飛行で最大能力を出すところから設計を始めるものだと思うのですが、そうすると、ジェット機はエンジン排気口のセンターに中心線が来ないといけないのかなあ、この図では少し上すぎるのかなあ、などと。

 そういう目で、手持ちの本のF-86図面に定規を当ててみると、作者によって微妙に違います。転載許可を求めるのが面倒なのでこの場では比較しませんが、人によって中心線が異なるというのも奇妙な話です。まあ、資料が少なかった昔の図面は想像で線を画かざるを得ない箇所もあったでしょうがね。

 インターネットで手軽に資料を手に入れられる現代では考えられもしないことですが、昔は必死で勉強し、叩かれながらも自分の世界を確立 する人が多かったように思います。近年のちょっと厳しい書評を書かれると反論もせずに逃げてしまうような人は、昔なら自然淘汰されていました。

 

ダグラスC-47(DC-3)の中心線

 さて、このような修行のおかげで、後年、ヘロン、CV-240、DC-3などの各社マーク入りの側面図を次々に発表できるようになりました。信頼性には欠けるものの、一応の形にはなってきました。長久保さんたちのようにエンドに仰向けに寝転んでブレストを浴びながら平面形を狙うところまではいきませんが、基地開放などでは、オリンパスペンでクローズアップを大量に撮ってきたりしていました。

 長くなりますので、おまけにダグラスC-47の中心線を紹介して終わります。

 米軍整備マニュアルから拝借したStations Diagramです。中央の赤い線はFLOOR LINEに合わせて私が引いてみました。水平飛行のときに人間が直立 歩行できるようにFLOORが水平になっていることがわかります。これをとりあえず中心線と呼んでおきます。

 そして機首先端をゼロインチとするダイアグラムがこの中心線に垂直に引かれ、パイロットコンパートメント後ろの防火壁から客室窓の縦のラインも垂直で、胴体フレームが中心線に垂直に取り付けられていることがわかります。主翼の3本のスパー(桁)、発動機の取り付け、主脚が伸張したときのラインまで見事に垂直です。

 発動機のスラストラインと水平尾翼にも赤線を入れてみましたが、これも中心線に見事に平行しております。

03/10/08 感想 泉水 閑さんから

 
 いつも貴ホームページ楽しく拝見させていただいております。

 さて、側面図-中心線の話についてリアクションなど少し。

 中心線とあるのは話からすると機体の基準線のことだと思いますが、おおむね胴体中心近く、単発機ではエンジン推力線に合わせることが多いようですが、必ずしもそうしなければならないということはないようです。

 基準としやすいところにあればいいわけですから、例えば2式大艇や97式大艇では艇底が基準線となっております。

 この基準線を元に胴体長手方向には胴体フレーム位置などを示すステーションダイヤグラムがあり、また主尾翼上下位置および角度が定義されます。

 主翼尾翼にも基準線がありそれによってリブ位置などが定義されています。

 そのほかに機体を水平面で輪切りにしたWP(ウォータープレン)、垂直面で輪切りにしたBP(バトックプレン)というのがあります。飛行機の等高線のようなもので、このラインがお互いにきれいに流れることで我々を魅惑するような機体の外形ができあがるわけです。

 ちなみにこのあたりの資料が一般に出回ることはほとんどありません(私もほとんどみたことがない)。ネット全盛の昨今でも秘中の秘ということでメーカーの書庫に眠っているのでしょう。

 ですから巷に流布している図面はマニュアルや取材写真を元にしたもので、描いた人の誤解や主観が反映されているわけですから、少しずつ違っていて当然です。それでも少しでも真実に近づこうともがくのがマニアの道なんですねぇ。私もその一人ですが。

それでは