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航空歴史館技術ノート

掲載05/05/14
追加07/02/06

 

衝撃波とベーパーについて

 

目次と掲載日

 

1 基本の質問と回答

05/05/14

2 ベーパー発生の実験

05/05/17

3 音速との関係について

05/05/17

4 速度制限について

05/05/20

5 Decision Heightについて

05/05/29

6 膨張波によるベーパーについて

05/06/22

7 F-4ファントムのドーナッツベーパー証拠写真

05/06/25

8 各種のドーナッツベーパー 写真   

05/07/16

9 御巣鷹山の事故にベンチュリー効果がなかったか?

07/02/06

 

マニアA  

 F/A−18Eのもの凄いベーパー発生の写真について
 
 この発生メカニズムは自分なりの考えを持っていますが、この際正しく知りたいのでご教示ください。



2005/05/05 IWAKUNI 興野博史

マニアB   

 F/A−18Eの機体後部に円形に見えるベーパーは衝撃波です。

 簡単に書けば、機体速度が音速を超えると機体先端を頂点に円錐型の空気圧(衝撃波)を引きずります。

 飛行高度が高ければ衝撃波は発生しても普通は見えませんが、デモフライトは、低空で飛ぶので高高度より空気密度が濃く、かつ湿度もあるので音速を超えない亜音速域でも円錐型衝撃波が発生してベーパー(水蒸気)が円錐型に霧を発生させます。

 この円錐型衝撃波をマッハコーンとも呼び、ベーパーを伴い、目に見える円錐型を通称ドーナッツ・ベーパーとか言っています。

 これは理論上は円錐型ですが、通常先端の尖り部は目に見えず円錐後半の部分にベーパーが大きく固まりドーナッツに見えます。

 ただしそのドーナッツは一瞬に発生消滅しますが、飛行姿勢によっては連続発生して、岩国では1航過に距離を置いた3連発のドーナッツが見えました。

 いつ発生するかは予想がつかず興野博士さんの写真は連写または偶然のチャンスかと思います。

マニアA

 衝撃波ですか。デモフライトでの速度・高度はどのくらいでしょう?目測で結構です。

 また、瞬間的な発生のようですが、主翼迎え角の大きい時又はフラップダウン角の大きい時などに主翼後縁に巻き上がるベーパーや、両主翼先端から筋状に長く、更にはプロペラ先端から螺旋状に発生持続する物とは異質のものでしょうか。

マニアB

 機体速度マッハ0.8くらいになると機体形状によりある部分の空気流速は音速以上になります。この場合の機体は0.8以下が亜音速域になります。

 FA-18Eの亜音速度がどのくらいか不明ですが、ドーナッツ速度は常識的に900km/hくらいと思います。このくらいの速度で2000ftくらいでしょうか。

 Aさんの言われるベーパーは、F-16、F-4、F-15などの部分形状から発する水蒸気(ベーパー)圧縮であり継続性があります。ドーナッツ・ベーパーとは違います。 


 なお、断っておきますが、以上は私が学問的に研究したというようなものではなく、いろんな資料から判断したものであり、よく分からない点もあります。

 例えば、F-16は、近年、各基地のアクロバット常連みたいなもので一番多く見ていますが、曇天気味の高湿度でもドーナッツは見た覚えがありません。胴体左右の主翼根元付近から翼上を流れるベーパーをよく見るし、F-4やF-15は左右の主翼端からベーパーを出しますが、いずれもドーナッツは出ません。

 ドーナッツはFA-18のほかは今はなきF-14も出しましたね。どちらも垂直尾翼が2枚!
 でもそれならF-15はなぜ出ない??

 ということで亜音速域または音速域でもドーナッツの出る、出ない機種があります。この辺を理論ではどう説明するのでしょうかね。

マニアA

 NASAの機関紙に発表してもいいようなお答え、いや冗談です。でも、F/A-18についてはよく分かりました。こんな瞬間を3回も連続して目撃することができた今年の岩国がうらやましいです。

2

 

 

2 ベーパー発生の実験

マニアA

 このベーパーについては実は随分前からの疑問でした。日本航空ボーイング747SR-100 JA8119の御巣鷹山事故(1985/08/12)の生存者証言に「一瞬客室内に霧が掛かった」というのがありました。

 尾翼が吹っ飛んで室内与圧が一瞬に抜けたため起こった急激減圧で起こった現象と思います。それを実証するため次のような独自のテストを試みました。(圧力によっては器具が破損して怪我しますので、特に子どもさんは真似をしないようにお願いします。)

 3ccくらいの注射器の針を除いた物を用意する。

 シリンダーをしっかり固定してピストンを一杯に引いた状態で、先端を空気が漏れないように指先で塞ぐ。一方の手でピストンを押して空気を強く圧縮する。(与圧)
 出口を塞いだ指を離す。「気圧がさがり」その瞬間、明らかにシリンダー内に一瞬ベーパーが発生することが確認できる!

 この指を離した瞬間、ピストンが前進しないようしっかり固定することが必須条件。持ち方の工夫が必要です。

 日航ジャンボ機事故の証言はこれと同じ現象と思います。
 こんなことがあったので今回のドーナッツ・ベーパーの発生メカを尋ねたわけですが、しかしこれとは別物の衝撃波と教えて頂きました。亜音速で起こること自体想像できませんでした。

  ベーパートレール現象はこの実験に近いものかと思っています。その理由は、飛行中の物体の進行側(前面)では空気が圧縮与圧されているが、前面を通過すると後ろ側は負圧が生ずるため、この圧力の急激な変化は注射器実験同様の現象と捕らえていました。

 主翼面と両翼先端とは境界層が異なるので先端だけに限りこの現象が起こり、筋状のベーパーとなって短時間見えます。

 また、プロペラのベーパーはUS−1の写真で見られますが、先端部分が最高速という発生条件と水面上の高湿度と言う条件が重なっているいのかもしれません。
 

マニアB

 Aさんの飽くなき探究心には恐れ入りました。注射器を使ったベーパー発生実験までするとは驚くばかりで脱帽です。

 日航ジャンボ機事故では機体後部が破損して機内は急減圧状態になりました。これは機内与圧が抜けて機内気圧と機内温度が瞬時に、外気圧と外気温度に下がります。この時に一瞬機内は霧(ベーパー)状態になると私も教育で聞いてます。

 自衛隊のパイロットが東京立川にある「減圧チャンバー(室)訓練」(高高度飛行中の戦闘機から脱出する時の急減圧訓練)では、室内に酸素マスク装着中のパイロットたちがいますが、減圧すると同時に室内が一瞬霧状態に曇るということです。いずれも短時間の霧状態のようですが。

 旅客機では、機内気圧、温度は飛行高度1万米でも3千米以下の気圧と機内温度プラス21〜25℃位に調整されてますが、急減圧により瞬時に外気圧1万米の低圧と外気温度マイナス50℃くらいになります。このため機内湿度30〜40%の水分が凝固して一瞬霧状態になるとかすかに聞いていたように記憶しています。

佐伯から口出し

 念のため、マニアBさんは 日航以外の元某航空会社社員です。

  御巣鷹山の事故では、飛行高度7300mの大気圧に対して機内与圧が高度3000m級に調整されていたとすると、気圧の差は0.472となり、噴出す空気は音速を超えます。(加藤寛一郎著「壊れた尾翼から」では、地上換算で毎秒約340mと試算) 

 そこで、一瞬霧が発生したという証言は、事故調の判断を裏付ける状況証拠ともなっていますが、隔壁大破壊による気圧差を否定する見解もありますので、そのことは置いておいて、マニアAさんの実験はジャンボ胴体内に起きたであろう事実を説明するものとして見事ですね。ドーナッツ・ベーパーとは別物と書いておられますが、原理は同じではないでしょうか。

 なお、機体が空中で水分を凝結させるベーパー(水蒸気)についてこんがらかるといけないので、分類しておきます。ただし、勝手な造語もありますのでご注意を。

Condensation Trail

いわゆる一般にコントレール飛行機雲と呼ばれるもの

 Vapor Trail

エンジン、翼端、プロペラなどからの水蒸気後流

 Mach Corn Vapor Trail

曲技飛行中に見られるドーナッツ状の水蒸気

 

3

 

3 音速との関係について

マニアCさんから

 Vapour trailは、その発生状況から目撃したマニア達の間で古くから衝撃波ではないか?と言われてきてます。

 しかしながら飛行場周辺で音速以上の速度で飛行する事は、管制圏内の速度規制を無視して飛行することになり、ましてや衝撃波による騒音問題とエンジン・ブラストや翼端から発生した
タービランスは後続機や離陸機に対して重大な危険も及ぼす可能性が在ると前置きをさせて戴きます。
 

 Vapour trailが発生する理由として考えられるのは、場所が海に近く大気中の水蒸気量が高く機体が高速で飛行しAngle of attackを増した時に一番圧力が掛かる機体の重心付近から大気中の水蒸気が圧縮されて出来るものと思われます。

 「ドーナッツの出る、出ない機種があります。」と言うのは、厳密には主翼と尾翼の間の距離に関係してる物だと思います。しかしながら、機体のプロファイルに関係する事から安易に断定する事は出来ません。

 

マニアBさんから

 前置きの部分については、マニアCさんの言われる音速公害は遷音速域以上での問題で、私は、亜音速域では音速公害は起きないと思 います。パイロットもそのあたりは心得て操縦しているのではないでしょうか。

 音速中心の速度はこんな区分けもあります。(久世紳二さん解説)

● 亜音速域 (マッハ0.7〜0.9:サブソニック:機体の一部空気流速が音速に達する前)
● 遷音速(0.8〜1.2:トランソニック:機体一部の空気流速が音速に達し、順次機体全面が音速に達する途中で音速域と音速以下が同居してる。この段階にさしかかると衝撃波が発生)● 超音速(1.2以上で機体表面上すべてが音速以上)
● 極超音速(4〜5)


 機体内部に霧が発生する時は、もちろん重大事故直結ですから、与圧関係のさまざまな対策を講じますが、機体の外側に発生する水蒸気は、飛行機雲がきれいだな程度の感覚で、手持ち文献にも殆んど記述がないです。

 流体力学か気象学の範疇になるのでしょうか。私も自信をもってモノが言えるレベルではありませんので、お許しください。

 

4 速度制限について

マニアCさんから

  音速公害以前に騒音軽減飛行として「全ての航空機は、安全に支障の無い範囲内においてできる限り騒音を軽減するよう努力すべきである。大型機の場合、騒音軽減の飛行方式が各機種毎に考案されており、また、飛行場により騒音軽減のための飛行方式が規定されている場合もある。」とされてます。

 これ以外でも管制圏内における速度制限があり、カテゴリーVに分類される機種も当然制限されている筈です。

 ただし、エアーショー等においてはこの制限は除外されますが、亜音速域迄の速度が出せるのかは私には疑問に思えます。

マニアBさんから


通常の飛行

 マニアCさんの言われる騒音軽減飛行は、空港付近地元住民の騒音公害対策としての常識です。このために無駄な時間や燃料浪費を覚悟の上で、遠回り飛行ルートや高度変更制限などをしています。

 なお、「管制圏内のカテゴリーV分類機種」というのはちょっと分りません?

 航空業界で、カテゴリーT〜Vといえば悪天候の視界不良でも機体側の機上装備品により安全に着陸できる段階を言います。

 参考に、便利なJAL航空用語辞典のカテゴリーT〜Vを見てください。
http://www.jal.co.jp/jiten/dict/p206.html#03-01

 このカテゴリー区分はマニアCさんのいう「速度制限」ではなく、しいていえば「高度制限」です。

 

エアショーの定番

 また、エアショーでは機種により多少速度は違いますが、亜音速を出す高速飛行と、逆にフラップダウン、ギアダウンのノーズアップでの低速飛行は、両方とも定番です。岩国だけではないですね。

 亜音速を出さなければ、あのような円錐型衝撃波によるドーナッツ・ベーパーはでないと思います。ただし、岩国のような多湿地域と特定の飛行機に限りますが。
 

 

De

5 Decision Heightについて

マニアCさんから


> このカテゴリー区分はマニアCさんのいう「速度制限」ではなく、しいていえば「高度制限」です。

 マニアBさんが述べられているのは、私が言いたかった管制方式基準で用いられる管制間隔のカテゴリーではなく、エアラインの社内において、パイロットの全天候運航に関する訓練審査を行うことで定められる実施できるカテゴリー類別だと思われるのですが・・・・

 簡単に言えば社内においてカテゴリーTの訓練審査しか行われていないパイロットでは、RVRが400メートルのカテゴリーUの条件ではILSアプローチを実施することができません。一般的にこのカテゴリー類別での運航は、認可された範囲内は勿論のこと、運用機の機上装備の整備状況や操縦するパイロットの資格、横風等RVR以外の気象条件を考慮して運用するカテゴリーが決定されます。

 この辺のことは日航以外の元某航空会社社員であったマニアBさんが私よりもお詳しいと思います。

 ところでで、マニアBさんが言われる「高度制限」とはDHの事なんでしょうか?

 管制圏内での速度制限は、飛行場を管轄する航空局へ申請書を提出する事で解除されると考えてます。

 

マニアBさんから


 基地航空祭のデモンストレーションの話題の中に「管制圏内のカテゴリーV分類機種」という言葉が出てきたので、少し面食らいまして、民間航空での自動着陸装置のカテゴリーを紹介しました。

 「高度制限」とはDHのことかと問われれば、そのとおりです。Decision Height、着陸決心高度とでもいいましょうか、機長によって高度が違います。

、機長資格については、法律に基づくものはもちろん、各社とも社内でカテゴリー(クラスとも呼ぶ)T〜Vの細かな規定を設けています。

 大まかに言えば、機種ごとの機長経験飛行時間によって3クラスに分け、悪天候で着陸できる滑走路視認高度を決めているのです。ベテランは低い高度まで降りて着陸できますが、新人は高度の高いところで滑走路が視認できなければ着陸できません。

 皆さんもご存知のように、同じ到着空港の悪天候でもA社は飛べてB社は飛べない場合があってお客さんは不思議に思われますが、これは機長のクラスが違うのです。

 

 マニアCさんさんが書いてるILSやその他の要件は勿論ですが、基本は機長発令後の当該機種飛行時間の差です。

(佐伯から口出し)

 大変興味のあることではありますが、Mach Corn Vapor Trailから少々離れすぎましたので、このあたりで打ち止めにしたいと思います。A、B、Cさんどうもありがとうございました。

 

6
 

6 膨張波によるベーパーについて

さんぴんさんから

(佐伯からお断り) いったん打ち止めにしていたMach Corn Vapor Trail問題ですが、さんぴんさんから、下記1が寄せられ、私の頭では良く分からないので、更に解説をお願いして寄せていただいたのが下記2です。原文のとおりを載せておきます。


 衝撃波とベーパーについてですが、厳密に言うとあの写真でベーパーが出ているのは、衝撃波によるものではなく、膨張波によるものです。超音速空気力学の教科書に出ていますが、衝撃波を通過した空気流は圧力が上昇して温度も上昇するので、飽和蒸気圧が高くなりベーパーの生じる条件はありません。

 写真に見られるように翼上下面の超音速膨張波領域では超音速流が加速され圧力が低下し温度が低くなるので飽和蒸気圧が下がり、過飽和の水分が凝結してベーパーとなると考えます。

 与圧室破壊によるベーパーの件ですが、確かに破口から噴出する空気流は超音速になることもあるでしょうが、破口の上流である与圧室内の空気流が超音速流になることは考えられません。超音速空気力学教科書のコンバージェント・ダイバージェント・ノズルの部分をお読みください。従って与圧室破壊におけるベーパーの出現は超音速流が関係しているのではなく、圧力の急激低下により温度が下がりそれに伴い飽和蒸気圧が下がり過飽和水分が凝結したものでしょう。

 翼上下面の膨張・圧縮の分布についてはRay Whitford, Design for Air Combat, (London; Jane’s, 2nd impression 1989)p.31Fig.22にのっています。またBill Gunston, Faster Than Sound: The Story of Supersonic Flight, (Somerset; PSL, 1992)p.102F-4が超低空を遷音速飛行している写真がのっていて、ベーパー部分を膨張によるもの、ベーパー後面でベーパーの消えるところを衝撃波と解説しています。

 


 どうも手を抜いた説明で申し訳ありませんでした。言い訳をいたしますと本業の方が少し忙しいもので、最低限の説明となりました。

 また私が遠い昔、超音速空気力学の授業で使ったテキストが私家版のもので、引用することができず、かつ日本語の出版物では超音速空気力学の適当な参考書を見たことがないもので(比良二郎氏の『高速飛行の理論』(広川書店、1977年)は多分良い本と思いますが、諸般の事情で私は見ていないのでコメントできません)あのような説明となりました。
 
 まず、飽和蒸気圧ですが、この場合は、ある温度の空気中に、水の気体が最大どれくらいの圧力で存在しえるかを意味します。飽和蒸気圧を空気の温度との関係で見ると、温度が上昇すると飽和蒸気圧も上昇します。つまり空気温度が上昇すると、気体として存在できる水の量が増大し、温度が低下すると気体として存在できる水の量が減少します。

 例えば気象現象でいえば、気体の水を含んだ空気流が山の斜面にぶつかって上昇すると、高度上昇に伴い気圧が下がって温度が下がります。温度低下に伴い飽和蒸気圧が低下して、温度の高いときは気体として存在できた水が、過飽和の部分(低下した蒸気圧より多い部分)が液体の水として雲になったり雨になったりするわけです。

 衝撃波通過後の空気流の変化については、結果だけ書きますと速度低下、圧力上昇、温度上昇しますので、飽和蒸気圧が高まりますからベーパーが発生する現象を説明できません。

 膨張波あるいは膨張については、下の図のように広がっている部分を超音速流が流れると超音速流は加速します。
 この場合は断面積が広がりだす頂点のところから膨張波が生じます。
     __/
   →
      ̄ ̄\
 この変化は等エントロピーで速度が増し、温度は低下し、飽和蒸気圧が低下します。
 http://142.26.194.131/aerodynamics1/High-Speed/oblique_shock_waves.htm
 ここに良い図が載っています。膨張波ではなく
expansion fans(膨張扇)としています。

 翼上面においても広がっているところを流れる流れがあり、(翼断面の曲面部分に接線を引いてください。空気の流れから翼面が逃げているので広がる流れということになります)超音速流であればそこで加速します。それに伴い温度が低下し、飽和蒸気圧が下がり、過飽和の水分が凝結します。
 http://www-comm.cs.shinshu-u.ac.jp/david/photos/supersonic.jpg
 例えばこの画像で注目していただきたいのは、キャノピー後半部分のベーパーです。丁度キャノピー後半部分は上の広がっていく流管の図の上半分部分を取り去ったものと考えてよいわけで、ここに超音速膨張が生じ、ベーパーが生じるのです。
 

 コンバージェント・ダイバージェント・チューブについて説明します。
 http://142.26.194.131/aerodynamics1/High-Speed/Page7.html
 この図の中ほどにコンバージェント・ダイバージェント(以下CDと略します。)・ディフューザの説明があります。これは超音速を亜音速まで減速して超音速機のジェットエンジンの空気取り入れ口に使うという話です。

 逆に超音速機のエンジンの排気口は、同じ形ですが、CDノズルといって、亜音速を超音速まで加速します(TF-40やRB-199はコンバージェントだけですが、排気流が自由流の中で自然に広がるということで、空力的コンバージェント・ダイバージェント・ノズルと呼ばれているはずです。手元に資料がなくここの部分は記憶で書いています。)

 つまり亜音速流は、断面積の狭まっていく流管で加速し、断面積の広がっていく流管で減速します。反対に超音速流は断面積の狭まっていく流管で減速し、広がっていく流管で加速します。上の例のディフューザの場合もノズルの場合もくびれ部分で丁度マッハ1になります。

 くりかえしますとCDディフューザの場合コンバージェント部分は超音速流で減速し、くびれ部分でM1.0になり、ダイバージェント部分で亜音速流になりさらに減速します。CDノズルの場合コンバージェント部分は亜音速で加速し、くびれ部分でM1.0になり、ダイバージェント部分は超音速流になりさらに加速します。

 いま旅客機の客室の与圧が破れて機外に噴出する場合を考えます。適当な破口の大きさと機内外の圧力差があって、CDの壁は無いけれども、空気流が理想的な流線を流れると仮定すると、破口からの噴出流は超音速になるでしょう。当然のことながら客室の流速はゼロから始まるので亜音速です。そしてくびれ部分は破口以外に考えられないでしょう。であるから機内は亜音速のままです。

 また超音速空気力学の特徴は超音速流が上流に影響を及ぼせないことです。であるから客室内には超音速流の現象による影響は生じません。
 
 以上わかりづらい説明となりましたがいかがでしょうか。ピッチアップした時に

 

マニアBさんから

 翼(機体)上面に発生するVapourについては、掲げられている外国HPにあるとおりであり、写真にもたくさん撮っています。

 本航空歴史館総目次の課題は、F/A-18の機体中央部を包むマッハコーンのドーナッツ・ベーパーの解明なのですが、そのメカニズムは 結局よく分かりませんね。

 写真は、いずれも機体上面に発生したVapourでF-16Cは岩国基地の2002/05/05、F-4EJ改は新田原基地です。





7

7 F-4ファントムのドーナッツ・ベーパー証拠写真

さんぴんさんから

 F-4の写真がBill Gunston, Faster Than Sound: The Story of Supersonic Flight, (Somerset; PSL, 1992)p.102と同じものがWEB上にあるので紹介しておきます。

http://www.tom-chris.com/galleries/aviation/Other/imagepages/image6.html (200/02/04現在リンク切れ状態)

 Gunstonはこの本の中で、写真のF−4が約Mach 0.95であると推測し下面のベーパーに「膨張」と説明をつけています(もちろん下面だけに限定したものではないと考えます)。

 マニアBさんの「瞬間強烈圧縮型ドーナッツ・ベーパー」という造語ですが、空気流を強烈に圧縮すると温度が上昇して飽和蒸気圧も高くなり、むしろベーパーが消える方向になると思いますので、適切な用語ではないようですね。

佐伯から

 瞬間強烈圧縮というのは、衝撃波形ができる瞬間の印象から来る造語でしたが、ドーナッツ・ベーパーを説明するにはふさわしくないので既に落としています。

 さんぴんさん紹介のファントムの写真には、Fast F-4 Phantom, for real!とキャプションがついていますが、ドーナッツ・ベーパーの凄さもさることながら、地上の自動車に接するばかりの高さをマッハ0.95で突き抜けるという離れ業には恐れ入りました。

 岩国基地のフレンドシップデーには、毎年、三沢のF-16チームが来てアクロバットをやってくれるし、築城のF-15や新田原のF-4が航過しますが、これだけの低空を音速に近い速さで飛んだことはありません。

 もし、飛んでいたら、なぜF-16やF-4に発生しないのかという疑問も生まれなかったかもしれません。それだけに今年5月5日のF/A-18Eの速度が裏付けされたようにも感じます。


 

8

8 各種のドーナッツベーパー 写真  

匿名さんから

 

  地平線の雨からのリンクで見かけたのですが,もしかしたら下記のページはご存じ無いのかなと思ったので,情報提供をさせて下さい:

http://www002.upp.so-net.ne.jp/a-cubed/aero-misc/pgs.html (200/02/04現在リンク切れ状態)

http://www.galleryoffluidmechanics.com/conden/pg_sing.htm

です。わりと reliable じゃないかと思います。後者の著者は Virginia Tech の先生です.

 

佐伯から 

 ありがとうございましたVirginia Tech の先生が考えたというPRANDTL-GLAUERT 理論は、そのページをいきなり開くよりも、Googleの検索からPRANDTL-GLAUERT[このページを訳す]をクリックして日本語訳から見るほうが楽ですので参考まで。

 注目すべきは、リンクされているcondensation AHoud (凝縮雲とでも訳しますか) が発生している写真へのリンクです。F-14、F-16、F-18と並んでデルタ翼のB-1とB-2のドーナッツ・ベーパーは圧巻です。

 

9

9 御巣鷹山の事故にベンチュリー効果がなかったか?

H2さんから

  カナダ在住27年で日本語が拙く申し訳ございません。貴サイトの航空歴史館総目次49衝撃波とベーパーについてを拝見している時に疑問に思ったことがあります。

 御巣鷹山の事故についての各氏の御意見で、「気圧の差は0.472となり、噴出す空気は音速を超えます」等の説明を読んでいておもったのですが、機内に発生した霧は破損部からの空気流出との事ですが、

 その仕組みの一部として、、、

 墜落中の日航機はかなりの航速でダイブしていたと思うのですが、機体破損部分に沿って流れる外気による「煙突効果」「ベンチュリー効果」によって機内の空気流出が更に加速され、機内の気圧が更に薄くなったのでは?と言う意見は、各専門家の方々から出ていませんでしょうか?

  先ごろ、カナダのディスカバリーチャンネルにて、過去にハワイであったボーイング旅客機のコックピット後部にある客室の屋根が吹き飛び、大破したにもかかわらず、無事着陸した事故、、、 

 この事故説明で、

 「屋根の金属疲労に加えて、煙突効果が屋根を吹き飛ばす事に大きく関与したのでは無いか?」と言う専門家の意見が出ていたので、

 もしかして日航機も同じ効果が発生したのでは?と先の疑問が生まれました。


佐伯からお答え

 数人の方からお答えがありましたが、質問の意味を様々にとっておられるようなので、私のほうで整理して書いておきます。

● 墜落中に機内減圧があったか
 まず、
後部圧力隔壁の破壊による一瞬の急減圧の後においても、機内の気圧が更に薄くなったという意見が専門家の中にあるかという質問ですが、そういう見解を読んだ記憶はありません。また、高速でダイブして墜落したのではなく、低速で迷走の末山中に激突したものです。

 ただし、機長が酸素マスクを着用していなかったことから、低酸素状態で一時的に正常な判断能力が失われていたのでrはないかという疑いは指摘されています。

● 煙突効果 ベンチュリー効果
 H2さんが言いたいのは、乗務員1人が吸い出されたハワイ事故のように客室内の人間や備品が吸い出されるほどの気圧差が続いて破壊されたのではないかということでしょうか?

 ハワイのボーイング737胴体上部飛散の事故は航空技術No.419(1990/2)No.420(1990/3)に掲載された事故報告書(抄訳)によるとつぎの通りです。

 この事故は、アロハ航空の整備技術力の不足から機体検査が不十分で、胴体外板張り合わせ部の接着剥離、疲労損傷を見逃したために発生しました。
 高度24000ft(約8000m)飛行中胴体外板のSL-10Lのラップジョイント(重ね部)が剥離して、与圧され膨張している胴体が外気低圧により瞬時に減圧(デコンプレッション)状態になりました。
 普通はそれでもフェールセーフ設計で胴体構造は破損しないのですが、この機体は胴体全体構造が疲労劣化でリベットが吹き飛んで上部外板が広く吹き飛んだものです。

  御巣鷹山事故では、客席から相当離れている後部隔壁の天井部分の疲労破壊が最初に起こりました。

 そこから流れ出した与圧空気は逃げ場を求めて垂直尾翼の点検孔(人が入る大きさ)から垂直尾翼の中へ入り、外板を止めているリベットを破壊し、垂直尾翼を骨だけにしてしまいました。 また後部防火壁とAPUを吹き飛ばしました。
 垂直尾翼
のコントロールを失った機体は操舵不能に陥り、左右のエンジン出力加減とエルロン操作だけで不安定ながら辛うじて飛行姿勢を保っていましたが、減速しようという機長判断によるものかフラップを全開としたために(機首上げ)失速したのではないかと推定されています。

 死を覚悟した乗客の中に遺書を書き残した人がいたように、煙突効果やベンチュリー効果が働いたとしても大きく影響をうけるほどのものではなかったと思います。

 カナダのディスカバリーチャンネルがどのように解説しているのかは知りませんが、アロハ航空のファーストクラス位置の天井外板の剥離は一気に起こったものであり、煙突効果なる言葉が意味するような次々に剥がれていったのではありません。吸い出されたのは、当然ながらシートベルトをしていない乗務員一人だけであって、客は全員助かっています。

 この事故は、大型機の与圧というものに対する技術基準を大きく変える転換点ともなりました。米国事故調査委員会はFAAに対して、アロハ航空への改善指導にとどまらず、航空会社での検査基準見直しや製造元の機体破壊試験の強度アップなどを具体的に強く勧告しました。最近、与圧が機体を突き破る事故のニュースに接しなくなりましたよね。

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