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航空歴史館 技術ノート 掲載14/05/25
追加14/05/29

 

木造の骨組みと羽布の修理の実際

 

 木造の骨組みと羽布の修理の実際 について

東京都立産業技術高等専門学校 荒川キャンパス
 ものづくり工学科 航空宇宙工学コース
教授 飯野 明

 佐伯さんの記事で気になる点があるので、お知らせします。
 現在、羽布のほとんどはポリエステル繊維が使われ、そのデュポンの商品名がダクロンです。張った状態で天然繊維の羽布と比べると軽い感じがすると思います。同じ材質のものでもパッチ当てすると退色の具合もあって目立ちます。

 アイロンは、ダクロン繊維を収縮させて張りを付けるので、展張(皺伸ばし)は誤解される表現と思います。一般の航空機は更に小骨かがり、テープ(テープ状の繊維)貼りなどをしてから、繊維の目止め塗りなどをして、仕上げ塗りになります。

 天然繊維は、ドープ塗りで繊維の張りと目止めが同時にできます。同時にできてしまうので、作業が難しいことになります。このことと、塗る回数を除けば、ダクロンと天然繊維の作業はあまり変わらないように思います。

 むしろ、最近の小型機(HOME・SITEMAP・サイトマップビルト機)には、フォーム材など塗料に侵されるものが使われ、その保護、配慮が必要です。

 防水とありますが、翼表面の圧力を羽布でしっかり受け止め、揚力を発生させるための目止めと私は思います。結果として防水にもなると思います。

 ライト・フライヤー、ハンググライダー、低速の超軽量動力機は、目止めの塗装は行っていません。

 ライト兄弟のグライダの残骸から羽布をもらった地元の人は、目の詰まった高級リネンなので、子供の服に仕立てたということです。ドープを塗っていたら、補助翼機能のたわみ翼も実現できなかったでしょうし、服にもできません。

 裁縫のピンキングはさみで、ギザギザに切れ、ほつれが防げます。男性にとっては馴染みがないだけと思います。

 羽布については現在でも、航空機整備作業の基準FAR43に記述がありますのが、現役のエアライン整備士のほとんどは体験がないでしょう。おかしい点もあればご容赦ください。

 

     

のこぎり・かんな・のみ、針と糸、のりによる修理

 この写真は、1988年10月に航空機復元協会が横田基地内でステアマンPT-17 ケイデット N61553の翼端を補充した時のものです。航空歴史館ステアマン参照

 中央でのみを使っているのが小山岩夫さんです。滑空機製造の萩原製作所で培った技術で、機体の木造部分をのこぎり・かんな・のみ、針と糸で修理し、その出来栄えに米軍関係者もびっくりしていたそうです。まさに名工と呼ぶにふさわしい人物でした。(S)

   

 

 この写真は、1960年の三軍頭語記念日で立川基地に展示されたダグラスC-47です。航空歴史館1960年の三軍統合記念日基地公開参照

 方向舵の羽布に多くの当て布が見えます。元生地と色合いが異なっているのは、元生地は亜麻布にドープを塗った本物の羽布であるのに対して、当て布は合成繊維(確かダクロンと呼んでいた)を使っているためと思われます。

 米軍は、破れた羽布を糸で縫い合わせて、カットした合成繊維を接着剤で貼り付け、アイロンを掛けていたそうです。アイロンを掛けるのは、合成繊維を展張(皺伸ばし)させるためです。

 亜麻布や絹の場合、ドープ塗料を何度も塗り重ねて、展張、防水、強度保持を行うのに対して、実に簡便なやり方でした。

 当て布を切断するはさみは、両方の刃線がギザギザになっている特殊なもので、布の切り口にギザギザを付け、簡単にはがれないような工夫もありました。(S)