書評
もう紹介の必要がないほどポピュラーになった文林堂の世傑ですが、103は、あまたの日本のマルヨンを待望する声を裏切って、開発や機構主体の編集となりました。
心配しなさんな、次回はF-104J/DJをメインに据えた特集を届けるからと編集後記に書いてあります。それは文字どおり104 イチマルヨンになるのかな。やれやれ!
しかし、103も濃い内容です。私の手には負いかね
ます。そこで角度を変えて、やや独善的な部分紹介を試みてみましょう。
濃いながらも多くの記事や写真は、たいへん失礼ながらどっかの本で見たことがあるような
気がしてなりませんが、70ページから83ページまでの「F-104のウエポン・システム 解説:山内秀樹」は
、まるではじめてディズニーランドを訪れた時のような興奮を覚えます。
それだけ素材が豊富で取り上げ方もユニークなのです。
例えば「5 F-104の射出座席」です。
例のF-104の下向きの射出座席が上向きに変えられ、最終的にはマーチンベーカー製のゼロゼロ
・ベイルアウト式になりますが、その間のものすごい経験と改修の歴史には圧倒されてしまいます。
爆撃機の航法士席などの射出座席は下へ撃ち出すものが多く、中には一気に加速されるため人間の首がついてい
かないものがあり、その実験フィルムを見せられた乗員が恐れをなして、まず無人のまま座席を射出し、その後で開いた穴から脱出するなどのエピソードは、下手な小説よりも面白いです。
射出座席記事以外の火器管制装置、パワ−プラント、核装備、ナサールレーダーも以下同文です。他の筆者との違いがよくわかります。
山内氏は、国防省が大量に発行するマニュアルの差し替え分まで収集して、しかも丹念に分析しているものと推察されます。そういう基礎知識
をもってしなければ関係者から必要な証言を聞き取ることなどできませんから。
内緒ですが、日本の航空工業の技術者が山内氏の記事で勉強しているそうです。
最新技術は習得していても、それがどのようにして開発され改良されてきたかの歴史を米軍マニュアルなどで勉強する暇はなく、山内氏のまとめがたいへん参考になるというのです。
少しほめ過ぎたかもしれません。
難点は、サービス精神が旺盛で読むものが消化不良を起さないかと心配なことです。
しかし、消化不良覚悟でもぜひとも読んでいただきたいと推薦をいたします。