はじめに
この書籍は、日本の航空・宇宙100年展「飛べ100年の夢 空と宇宙展」の記念誌としてつくられ、同展を後援している財団法人日本航空協会の航空遺産継承基金の賛助員に送られてきたものです。まずは、A4番120ページに及ぶボリュームたっぷりの豪華な本を頂いたことに感謝します。
また、本書は、展覧会の趣旨を理解してもらうためのものであって、展覧会の展示物と一致しないものや、展示されていない資料も載せてあるとの断り書きがありますが、わざわざ上野へ行かずとも、展覧会の大よその内容が分かるという点で、感謝申し上げるものです。
よって、ここでは、書評と言いながら、その範囲内において展覧会そのものの批評を試みていることになりますので、あらかじめご了承ください。足を運ばずして、展覧会を云々するのは不遜なりとの批判は甘んじて受けるつもりですので、実際に行かれた方からの反論等を待ちます。
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企画・監修 国立科学博物館 理工学研究部
科学技術史グループ長鈴木一義
編集 日本経済新聞社文化事業局
日経サイエンス社
編集協力 日本航空協会航空遺産継承基金発行 日本経済新聞社 |
1 お金も知恵もない日本の航空100年
1-1 実機の展示が無い航空展
巻頭に、科学技術史グループ長鈴木一義さんが博物館所蔵の「モ式六型 A3606-1参照」を展示できなかったことを担当者として残念でならない、深くお詫びするとの嘆き節を述べています。
いろいろ事情はあるのでしょうが現存する最古の国産機を100年展で見せられないという致命傷をはじめとして、航空関係が部分品と写真だけの展示とは、我が国の航空に関するレべルの低さを見せつけるものとしか言いようがありません。
1−2 宇宙におんぶにだっこ
本書の120ページ中46ページは宇宙開発で占められています。航空100年というのを、糸川博士からの宇宙開発57年とだぶるせることについては賛否がありましょうが、本書の約4割が宇宙関係に割かれているのを前にすると、航空の影が相当に薄くなっている(冷遇されている)と感じざるを得ません。時あたかも小惑星探査機いとかわの大成功を目玉にして、人々を呼び寄せたいという、宇宙におんぶにだっこの航空100年展です。
日野・徳川の事績が、三菱MRJなど今の日本の航空界につながってきたという歴史を語っていたものが、華々しく宇宙のお話しに飛躍してしまうと、どうにも白々しい気持ちになってしまいます。
もちろん、宇宙を入れるべきだと考える人もいるでしょうが、日本では、戦後の空白7年のために、未だに教科書にすら航空といえばリンドバーグの大西洋横断飛行くらいしか出ていないという現実の中で、もっともっと飛行機そのものをアピールしてほしいのが、ヒコーキマニアの願いです。
たった1度しか巡り合わない100年という節目に、日本のナショナルミュージアムが実機の展示もない、宇宙に寄りかかってのイベントしかできないという、お金も知恵もない現状をとても悲しく思います。
2 編集について
2-1 グライダー
航空という場合に、ともすると滑空機が欠落するというのがグライダーマン達の不満なのですが、本書ではコラム日本の風に乗ったグライダーとして47枚の写真と簡単な解説文が載りました。結構なことだと思います。
ただし、1930(昭和5)年、所沢での片岡文三郎飛行士の飛行を日本で最初のグライダー滑空飛行記録としている点にはいささか疑問が残ります。注意深く、最初の記録飛行と書いてはいるものの、さらっと読めば、日本初の滑空飛行と誰でも思います。未だに定説が生まれていない領域なので、ここの記述は問題ありです。G15参照
2−2 小さな写真を並べただけの編集
宇宙のページが大変に充実しているのに反して航空のページの編集は、極端に言えば写真を並べただけの、やっつけ仕事です。近頃の人は視力がよいものと見えて、例えば、右の如しです。28ミリ×24ミリの絵が、もう無数に並んでいます。
A4判1ページの中に詰め込もうとすると、誰がやってもこうなりますね。100年の歴史を追うためにこれしかないのだと言われれば引き下がりますが、多くの人は、すぐに見る気を失うだろうと思います。
流れを理解するのも困難、ましてや図録としての資料的価値は甚だ稀少であるとしかいえません。
参考として、酣燈社が出した「日本の航空50年」のグラビアの最後のページと、本書の航空の最後のページを比較してみてください。50年の間にこれだけ飛行機が多種多様になったと学んでもらいたいという趣旨なのでしょうかねえ!
3 貴重な展示と言われますが
3-1 90枚の手彩色写真
同博物館のホームページに次の文章があります。
今回初公開となる貴重な資料の一つは、科博が所蔵する1910年〜1935年ごろに陸軍機を撮影した、90枚の手彩色写真。戦前、科学博物館に陸軍の航空室があったことからこれらの写真が保管されており、近年発見されました。当時の機体の色を再現する資料として注目されます。
その一例が右のような写真だと思うのですが、皆さんどこかで見たようなと思いませんか。そうです、絵葉書です。当時は、このように写真に着色した絵葉書が一種のプロマイドとして人気がありました。陸軍も、それにあやかって宣伝効果と収入をねらって、絵描きさんに色を付けさせたのでしょう。その原版が保存示されているとすれば確かに貴重ですが、あくまで色絵具であるし、機密のところは当然隠されていますので、市中に出回っている絵葉書と何らかわるところはないように思うのですが、いかがなものでしょうか。2-08参照
3-1 実物展示は
展覧会には、実機はないもののプロペラなど航空機部品の資料が展示されているようです。それらは本書に載っていないので、一層欲求不満が募ります。会場に行かれた方、写真撮影が可能なら、主なものについて、どこの所蔵かを付記して送って頂きますようお願いします。
以上、大変に辛口の評論になってしまいました。しかし、それは、展覧会の実施者や記念誌の編集者に向けたものというよりも、いくら現場で頑張ってもこういう辛口を叩かれるような事業しかできない、日本の航空、ひいては科学技術に対する政策の貧困に対して大声を張り上げたい気持ちで書いているものです。
そこのところを受け取って頂ければと思います。
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