・ 敢えて無断転載いたします
-無断転載を禁じます- とあるのを承知でエアワールド誌2013年3月号の編集後記と奥付を転載しました。航空史を追求するインターネット航空雑誌ヒコーキ雲の使命のひとつとして是非とも取り上げておきたいからです。
・ 電子書籍というのは言い訳?
編集後記に雑誌形態での販売をこの3月号をもって終了するとあります。3月から電子書籍の形態で発行するそうです。
電子書籍というのは、我がインターネット航空雑誌ヒコーキ雲を有料化するようなもので、ライバルが現れるのかいなと苦笑を禁じ得ません。
それが時代の流れかもしれませんが、航空雑誌の主要テーマを占めるニュースとか航空史とかは、ネット世界では、タダで豊富に見られます。そんな環境下でエアワールドの読者が果たして有料の電子書籍にシフトしてくれるのでしょうか。
ネットで検索すると、”エアワールド休刊をめぐるライター話”というのがでてきて、裏話が暴露されていますが、「電子書籍エアワールド」そのものは見当たりません。失礼ながら廃刊の言い訳に過ぎないのかなと思ったりします。
・ 金太郎飴の【総合航空誌】から脱落
民間旅客機や軍事航空や模型専門の月刊誌を除く分野の航空雑誌を【総合航空誌】と位置づけますと、この60年の間に「世界の航空機」「航空マガジン」「航空ジャーナル」がつぶれて、残る「航空ファン」「航空情報」「エアワールド」の3誌から今回「エアワールド」が脱落しました。
「エアワールドが危ない」という噂は何年も前から地方にも流れていました。そうかなという思いは、【総合航空誌】の金太郎飴のような編集方針の中で輝きを失いつつあったからです。【総合航空誌】の基本的なスタイルを確立したのは1960年代の航空情報であり、そこで鍛えられた有能な編集者たちが酣燈社を去って航空ジャーナルやエアワールドを創刊し、新たなスタイルに挑戦してみたものの、やはり航空情報的なものに還らざるを得ず、金太郎飴の並立で魅力を失った結果ではないでしょうか。
・ 編集者のヒコーキマニア度が売れ行きを左右する
憶測にすぎませんが【総合航空誌】を購入する層の多くは年齢を問わずヒコーキマニアと呼ばれる人々でしょう。だから、売ろうとすれば、ヒコーキマニアの心理などをよく勉強しなければなりません。もちろん、大企業や防衛省などのお眼鏡にかなうためには、高度の航空経験を有する編集者も必要でしょうが、彼らにマニアの心理を読ませるのはどだい無理な話です。
いわんや、航空のド素人を出版業に詳しいという経歴だけで【総合航空誌】の編集人に充てれば、その先は言わずと知れています。【総合航空誌】は航空専門家と出版専門家だけでは成り立たないのです。
かって、航空情報凋落の頃から航空ファン誌が抜きんでてきたのは、ヒコーキマニアの心理を的確に理解する編集室があり、その一貫した姿勢に賛同する専門家やマニアから優れた執筆者や写真家や投稿者を育ててきたからでありましょう。
・ 人手不足と時間不足が低下のスパイラル
エアワールドの最終3月号で、編集員が自ら取材し記事にした数本のグラビアと記事を拝見し、その落第生並みの文章には驚きました。
素材がとてもいいので惜しいことです。私に時間を掛けて整理させてくれたらあの半分の文字数で的確かつ読みやすい文章にしてみせますよ。
これは編集長の責任です。ゆっくり読んで推敲し、書き直させ、編集会議で議論するという人手と時間を掛けるべきなのです。もちろんそんな余裕は無く、悪いと分りながら目をつむって印刷に出したのでしょう。
商品を売る側において、これほど消費者を馬鹿にした行為は許されませんね。読者が次第に離れていくのは当たり前でしょう。売れないから人を増やせない、ますます内容が悪くなる、エアワールドはこのスパイラルに陥ったに違いありません。金太郎飴から脱落していく大きな理由の一つです。
・ 一社への肩入れ
最終3月号のグラビアに「JATジンベエジェット」「JALドラえもんジェット」「JAL国際線
777-300」「JALグループ新制服」と4本の日航関係が7ページを占めています。対する国内各社の記事は、国内ニュースの中に「ANA、羽田〜岩国線を就航」という小さな囲み記事があるだけです。
創刊号以来ずっと広告を出して後援してくれた日航へ仁義を切る気持ちが分らないではありません。でも、こう極端になってくると平衡感覚を失っていると言わざるをえません。
・ 阿曽源彦さん ご苦労さまでした
以上、随分手厳しく書いて参りましたが、阿曽源彦さんには1977(昭和52)年の株式会社エアワールド設立以来7年間、本当にご苦労様でしたと申し上げます。初代編集長の大谷内一夫さんに匹敵する人材を後々得ていたなら、と
言っても栓ないことですが、しかし、連綿と続いてきた記事や写真に関しましては、航空史を調べる者にとって宝庫になっています。それを申し上げて、ご苦労に報いたいと存じます。
・ 航空ファンと航空情報の将来
残る【総合航空誌】は航空ファンと航空情報の2誌になりました。広島市内の大手書店の紀伊国屋、ジュンク堂、MARUZENを覗いてみると航空ファンは必ずありますが、航空情報はあったり無かったりという状況で、一応、航空ファンの勝利が続いています。
1950年代の経済学では、寡占化が一層の寡占化を招くというのが定説で、その例として圧倒的なシェアを占めるキリンビールが揺らぐことはなく、サッポロと朝日が追い付くことは無いだろうというのが挙げられていました。ところが、朝日ビールがアサヒドライで乾坤一擲の勝負に出たら、見事にこの定説がひっくり返りました。
航空ファンが寡占化状態にあるとまでは言いませんが、航空情報の苦戦はその誌面から大よその察しがつきます。航空情報に育てられた世代として「お前もか」と嘆かせないようにしてほしいです。その対策は、一にも二にも買って貰える、書店に置いて貰える本づくり、つまり、読者の興味を惹き信頼をかちとる誌面づくりでしょう。編集室の人手が足りないなら知識豊富なマニアに頼むなどいくらでも方法はあると思います。
ひるがえって航空ファンが安泰かというと、既に名編集長の域に達している三井一郎さんの時代がいつまでも続くことはないし、雑誌以外の分野にいろいろと手を出しているのが本業に支障をきたす恐れだってあるでしょう。
いずれにしても【総合航空誌】の火が消えることがないように、両社切磋琢磨して、新しい航空史を切り拓いてください。
それが航空ジャーナルやエアワールドの遺言であります。