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図書室73 掲載2005/10/31 評者 佐伯邦昭

 

 

書名 占領下の横須賀 連合国軍の上陸とその時代 YOKOSUKA-UNDER OCCUPATION
 

発行 2005年3月31日 横須賀市役所
 

体裁 A4判 グラビア印刷102ページ 写真175葉
 

定価 1000円

 

 

 

 

 

 

歴史派ヒコーキマニアとしての感想

 私は、日本の航空発祥と呼ばれる各地域に興味をもち、横須賀については日本海軍航空発祥の地として、05年4月には追浜近辺を見て回りました。

 中心となる横須賀海軍航空隊追浜飛行場の跡は日産自動車の工場やテストコースに変わって往時の状況を現地で確認することはできませんでしたが、横浜市金沢区側の野島山頂から目に焼き付けた地形をもとに、戦前戦中の姿をプロットし、日本の航空発展史を充実させたいものと資料を集めています。関東東海遠征記2日目参照

 そんな訳で、本書の存在を知るや直ちに横須賀市役所へ注文して送ってもらいました。

 戦前のよき時代の市民生活から始まって、戦時下の空襲や建物疎開、敗戦後一躍世界の舞台に踊り出た降伏文書調印から一連の上陸作戦、武装解除や施設の引渡し、米軍兵士の行動や横須賀市民との接触など、60年前にタイムスリップしたような錯覚のなかで最後のページまで見ていきました。

 

 そこで、歴史派ヒコーキマニアとしての感想ですが、これは苦言に近いものになります。

 横須賀が海軍(艦艇)工廠あるいは鎮守府としてのウエイトが大きいから、本書の編集もそこにウエイトを置くのは理解できますが、艦艇の陰に隠れて航空機分野、つまり横須賀海軍航空隊と航空工廠がほんのわずかしか扱われていないという不満が残りました。

 戦中に米軍機から撮影された写真、それをもとに作成された横須賀港内の爆撃作戦地図などで、私が最も見てみたい追浜地域は、編集の都合なのか100%カットされています。

 飛行場の滑走路や野島や夏島への連絡通路などの状態が見えるものは1枚もなく、米軍が横須賀全体の軍需施設の中で航空部門をどう見ていたのか知りようがありません。

 占領後においては、飛行場の滑り(レッドビーチと名づけられていた)を利用して上陸用舟艇やLSTで揚がってくる場面、日の丸を描いたF4Fの残骸、焼却される日本機の遠景、GIが興味深そうに見ている桜花などが、航空関係のすべてです。

 思うに、横須賀市役所市史資料室に、その関連の写真は山とあるはずなのに、編集委員さんたちの頭の中は、ヨコスカ=横須賀鎮守府であって、海軍航空隊の意識が希薄なためか、航空機に関する知識を学んでいないということなのでしょう。

 艦船の方では、戦艦長門がたくさん出てきますし、練習海防特務艦富士(個人の話で恐縮ですが、私の祖父が日露戦争の戦艦時代にこの艦で戦死)の横倒し写真などがでています。うらやましいです。

 

 以上、歴史派ヒコーキマニアとしての感想ですが、あまり一般論として通用する議論ではないですね。代表者の方が、次のように書いておられますので、関心のある方にはお薦めの一書であることを強調しておきます。

 「対象とした時期は占領期という短い間ですが、大きく変化した時代です。同時代を生きた方々は昔を思い起こし、その時代を知らない方々にはこの写真から大きな変化を見ていただき‥‥」

 最後に、風俗の問題ですが、有名なドブ板通りについて、建物疎開跡の寒々とした風景ばかりで、軍隊駐留に付き物の赤線などの写真が見えません。おそらく1946年当時には闇屋とともに赤いルージュのお姉さんたちが群がっていたのではないかと想像しますが、歴史を振り返るときに、避けて通る道をたくさん作ってしまうと誤解を与えるのではないかと、老婆心ながら申し上げておきます。