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図書室 掲載17/07/22
追加18/03/23

航空から見た戦後昭和史

  新 1964東京五輪聖火空輸大作戦

 

評 佐伯邦昭

 

航空から見た戦後昭和史

 

 発行 2017年2月7日  原書房

 著者 夫馬信一(ふま信一)

 航空技術監修 鈴木真二 

  定価 2500円+税  

  一読して、この本はどういう人達が買うのだろうかという興味が沸きました。
 航空史専門書に非ず、航空趣味本に非ず、社会風俗歴史本に非ず等々と、単細胞の我輩は、どれかのジャンルに区分けしたくなるのですが、どれにも該当してしまう困った本であります。

 敢えて言えば、戦後の航空に関する紙資料などを総当りして、国内外の政治経済に振り回された航空の幾つかのエピソードを抽出し、航空従事者の生き残りや遺族に取材してまとめた総合週刊誌的集積本とでもくくっておきましょう。

 帯に列挙された項目を見てください。

 吉永小百合や横井正一を航空の世界から語るなんぞは、読者の意表を突きますが、なるほどと思わせるものがあります。


 以下、総合週刊誌的集積本としての読後感を箇条書きしておきます。

・ 航空から見た戦後昭和史という題名を決めるには随分迷われたそうですがLive Blog参照)、 副題の ―― ビートルズからマッカーサーまで ―― の年代逆表記が何を意味するのか、単細胞の我輩が「総合週刊誌的集積本」とやや意地の悪い決め付けをしている原因の一つでもあります。
 

・ 巻頭16ページの航空メモリアル・アルバムは、本書で言いたいことを先にカラーページで出しておいたのでしょう。珍しい写真もあります。
 

・ 本文を読み始めてすぐに致命的欠陥に行き当たってしまいます。世界一周のニッポンを九六式艦上戦闘機とやってしまったことです。しかも本文と写真説明の2箇所で。
 航空技術監修者の鈴木真二教授のいい加減さを疑ったのですが、これは、校正段階でのダブルミスのためだそうで、教授の責任ではないとのことでした。原書房は、このページに訂正メモでも入れておかないと、本書の価値を著しく落としてしまう冒頭の致命的欠陥になってしまいますね。
 

・ ある意味で、日本の戦後は「飛行場」から始まったといえるかもしれない 1945年8月30日、専用機ダグラスC-54バターン号が厚木飛行場に到着 〜   の書き出しは印象的であり、なるほどと感心しました。航空史家としてその観点はかみしめるべきものと思います。
 それは占領政策として羽田の接収、大規模強制収用、外国による民間航路開設、航空再開の許可、日航などの創設と発展と続くわけです。羽田が日本の民間航空の核として展開してきたことを本書の殆ど全てのページで読み取ることができます。
 

・ その点で、ヒコーキマニアとしては知っていることが多いのですが、パイロット、機関士、スチュワーデスによるエピソードや秘蔵してきた写真資料などに、新聞の社会面的な面白さや新発見が多々あります。
 

・ 夫馬(ふま)さんは、現在、東京オリンピックに関する作品を企画していて、その前段とも言うべき1964年東京オリンピックの聖火輸送とブルーインパルスによる五輪マークのことに多くのページを費やしています。
 その中で、ヒコーキ雲として最も驚いたのが、アテネから沖縄まで聖火を空輸したJALのDC-6B City of TokyoがJA6201ではなく、JA6206 City of Nagoyaであったこと。JA6206の機首をCity of Tokyoと書き換えているのでした。調べてみると、まさに、そのとおり。
航空情報196410月号99ページにシティ オブ トキョウ号が914日にアテネへ向けて出発したという写真と説明がありますが、それをJA6201と信じた読者はだまされていたのです。
 

・ 聖火輸送に関しては、沖縄からのYS-11聖火号も詳しいですが、夫馬さんがヒコーキ雲の試作2号機のページを見ていれば、もっといい写真を載せられたのではないかなあ‥。
 

・ 空の貴婦人 ダグラスDC-8が引退するに当り、JA8001 Fuji号の保存運動が起きで、かろうじて前部ドアより前の部分が保存されましたが、なんと、その日本間ラウンジに筆者と鈴木教授が座っているカラー写真が! うらやましい! 

 

・ 航空から見た戦後昭和史というからには、自衛隊航空が柱の一つになるし、厚木・羽田以外の米軍航空史も落とせませんが、本書では、五輪マークのブルーインパルスだけです。筆者に、そっちの方に興味があるならば、別の機会に取り上げていただきましょう。


 長くなるので、独善的感想はこのあたりでやめます。

 この本は、一読して終わりというものではなく、枕元にでも置いて、時にランダムに読んでみるという、オンニバス的な読み物として推薦しておきます。 

 

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新 1964 東京五輪聖火空輸大作戦  

 

1964東京五輪空輸大作戦

発行 2018年2月26日  原書房

著者 夫馬信一(ふま信一)

航空技術監修 鈴木真二 

定価 2500円+税   

   出版の協力者としてご恵送を受けました。

添書の夫馬さんの挨拶



協力の証拠  P267 ◎ 聖火リレーはまだ終わらない 

P314 協力者名簿の一部


 夫馬さんは、上記とは別に佐伯宛のメールで

今回の本は東京五輪聖火リレー全般について紹介している書籍です。従って本書は「航空本」とは言い難い内容になっており、 航空ファン向けの佐伯さまのホームページにはそぐわないと思いますので、 今回はご紹介には及びません

と謙遜か極め付けか迷うような言葉を添えてきましたが、「空輸大作戦」という内容をだまって見過ごすわけにはいきませんわなあ。

 それで読み始めましたが、317ページに及ぶ大部を読了するまでに随分時間がかかりました。と同時に、前書と同じように、当たることのできた人物と資料には100%対面して調査を行った行動力、それに基づく文章化能力と300点以上の写真や図版編集の努力に畏敬の念を覚えました。

 内容をくどくど説明するよりも帯封で聖火空輸作戦が如何に大掛かりなものだったかを、概略理解していただきましょう。




 これだけ見ると、1964年の聖火空輸だけのようにみえますが、6年前の1958第3回アジア競技大会(東京)の際に、海上自衛隊のP2V-7がマニラから沖縄を経由して鹿屋まで聖火を空輸していること、そして、オリンピックの聖火リレーそのものが1936年のベルリン大会がルーツであることなどが詳しく紹介されています。

 その歴史や伝統に立脚しての1964東京五輪聖火リレーなのですが、ギリシャから政情不安な国が多い中東とアジアをどうやって運んでくるか、機種をどうするか、民間機に危険物たる聖火を搭載するにはどうすればいいか、そこに力をふり絞る数多くの人材のドラマツルギーが描き出されます。

 「航空本」とは言い難い内容というのは、『数多くの人材のドラマツルギー』そのものを指すわけですが、航空機を刺身のつまのように扱っているわけではなく、時に主役となり、時に舞台回しの力持ちにもなっている訳ですから、これは立派な航空本であります。

 来たる2020年には、ギリシャからどのような形で聖火を輸送してくるのか知りませんが、多分、水面下でその作戦が練られているのでしょうから、関係者にとって本書は必読であり、また、広く航空ファンも聖火空輸の成功とはどのようなものかを常識として知るいい機会になるのではないでしょうか。

 なお、写真と図版は、前書と同じように原則奇数ページに張り付けてありますが、前書よりも少々欲張りすぎたきらいがあり、経費節減のためか紙質も良くないので見ずらいのが難点です。

 それと、夫馬さんには、1964東京オリンピックの招致に関して、池田勇人と田畑政治の奮闘をえがいた幸田真音さんの「この日のために」を読まれるよう勧めておきます。