天空橋前の羽田整備場地区南端から北へ向かってJ歩くと、目指す第2綜合ビルがあります。1階のビル受付で入館バッジを貰い、2階の日航安全啓発センターへあがります。
午前10時からの予約客は10人ほど、事前に8.12連絡会事務局長美谷島邦子女子に伝えておきましたが、お見えにはなりませんでした。
180坪ほどの展示室を説明スタッフに案内されて回ります。所要時間1時間。
撮影厳禁ですが、写して悪いものは遺品などわずかしかなく、回収された後部圧力隔壁や垂直尾翼などをなぜ写させないのか分りません。残骸には航空鉄道事故調査委員会のラベルが貼ってあり、マジックで記入した記号や番号もそのままになっているのが、何か具合がわるいのでしょうか。
スチュワーデスらしい美女が説明を聞きながらメモをとっていましたが、横目でちらっと見ると、薄暗い照明の下で何を書いているのか、後で参考になりそうな字ではなかったですな。
展示をどう見るかは、見物人によって違うと思います。
興味といっては失礼ですが、私が最も関心を抱いていたのは、後部圧力隔壁の接続不良部分から疲労亀裂が発生し、次第に広がっていったという箇所です。その肝心のところでスタッフの説明がさらっとしたものだったので、「具体的にどこですか」と質問したら、「そこです」とあっさり答えて次の展示品へ行ってしまいました。1人残って本に書いてある周辺部のスプライスプレート(継板)、スティッフナー(芯金)、リベット穴などを確認しようと覗いてみましたが、それらしいかなという程度のことしかわかりませんでした。
誰のために何の目的で、このような立派な施設を作って残骸を運び入れたのか、少々腹立たしい思いがよぎりましたね。
事故の全体状況については、部品が散らばっている山の模型をはじめ、どこが千切れて、どこが回収されたとか随分と手間暇かけて図板やビデオを作り、ボイスレコーダーから複製した会話まで流しています。
しかし、事故の原因という点において、最も強調して説明されるべき大阪事故後のボーイング社修理チームによる欠陥修理のことをさらりとかわしてしまったのでは、日本航空が一番悪かったのですという自虐展示に過ぎないと言わざるを得ません。
聞くところでは、JALの整備チームが見学すると、この点がよく言われるそうです。当然です。
ボーイング社修理後の受領検査とその後の6回にわたるCチェック(飛行3千時間ごとの検査)で問題箇所を発見できなかったからと言って、検査員たちが事故の危険性を知っていて故意に手抜きをしたなんてありえません。結果論としてマニュアル以上の注意を払えばよかったというだけのことです。
○ 日航の個々の社員に責任があるか
美谷島邦子女子は「JALの一人ひとりの社員は、すばらしい、優しい人たちです。」と書いています。そうです。現場の人たちがやるべきことをしていなかったのかと言えばノーです。その時の教育なりマニュアルに基づいて与えられた職務を果たしていたのです。誰かが手抜きをしたなどいう立証はありません。
○ 経営者は安全対策を軽視していたのか
社会の批判は、日航という組織体に向けられます。営業優先で、安全対策をおろそかにする企業風土があったのではないか等々。確かに、末端現場の声が上層部に伝わりにくく、発言しても仕方がないやといった風通しの悪さがあったでしょう。だから、経営者が整備へ金を出し惜しんで故意に対策をおろそかにしていたのかと言えばノーです。
他社に負けないよう新鋭機を導入し、その関連整備施設一切のお金を調達しようとすれば、経営者の顔はそちらの方に向きっぱなしで、旧来の設備に目が届かなくなってしまうのはどこの会社にもあることです。それが安全意識の希薄につながったというのは学者の結果論であって、まさか予見できる重大事故から目をそむけていたなんてあり得ないことです。
柳田邦男氏らの日本航空アドバザリーグループが「安全を確保する企業風土の創造」という提言を行っていますが、すべて学者評論家の結果論であって、ボーイング社の責任をほとんど無視し、日航がかくかく変わるべきだということに終始しています。私は、一読して、これは原因究明隠しじゃないかとさえ思いました。
その中に、残骸その他を展示して安全教育を行えという提言があり、私の見た限りでは安全啓発センターはその提言内容を忠実に実行したものであります。
見学の後で、JAL執行役員 安全推進本部副本部長 総括安全補佐の小林忍さんと会って、このような私の考えをぶつけてみました。小林さんは、保存公開については、社内で賛否の激論が交わされたけれども、やはり非常に有益なものであることを、慎重に言葉を選んでお答えになりました。その公式発言だけを記して、具体の会話の内容は私の胸の内に留めておきましょう。
○ 結論
安全啓発センターは、日航はかかる施設をつくってまで安全運航に最大限の努力をしていますよという宣伝であり、遺族や学者評論家に対する迎合(へつらい)でもあるとの感を強くしました。
無駄な施設とまでは言いませんが、その辺の博物館がうらやましがるであろうほどに金をかけていること、スタッフの人件費やビル会社に支払う家賃その他維持管理費などかなりの負担が生じているはずです。
そのお金を整備工場へ回してやりなさいよ。幹部が、これがなければ社員の安全教育ができないと本気で考えているとしたら日航は危ないです。
「利益水増しが隠した5期連続赤字 処分資産尽き資金繰りの綱渡り続く」(週刊ダイヤモンド3/10号)日本航空にとくと考えて頂きたいものであります。