伝説の時代から現代まで 航空史抜き書き 

航空歴史館 技術ノート

東京都荒川区南千住 都立産業技術高専

クリスレア C.H.3 スーパーエースについて
 

文 にがうり 
 
写真 佐伯邦昭 にがうり


 東京都立産業技術高等専門学校科学技(荒川キャンバス)の展示館に保存されている機体は貴重な機体があります。その中に英国製クリスレアC.H.3シリーズ2 スーパーエース(JA3062)は英国においても数機しかない希少機であり、かつ外観、操縦システムとも珍しい機体です。

 ・ まず外観で目立つのは小型単発機ながら双方向舵の前輪式です。








・ そして操縦輪の形が半円形ながら通常は上部の切り欠け型が多いのにこの機体は下部が切り欠けています。しかしその最も珍しいのは操縦輪の根元は半球形で す。

 これは非常に珍しい操縦システムで、操縦輪は半球形の内部ユニバーサル・ジョイントによってエレベーターとエルロンをコントロールするシステムになっています。

下側が欠けている円形の操縦輪は、自在球形によって上下左右に動く仕組み




 その操縦輪は
   
      左右に回してエルロン
   
      上下に動かしてエレベーター   

という従来の操縦輪とは大分違う操作を必要とします。

(見難い解剖図ですが、ご想像を 佐伯邦昭) 

 ・ 足元にはサンダル状のフットペダルがあり、ラダー操作と車輪ブレーキを兼用します。





 
乗員座席の間にレバーがあり、ON.OFFで後席下の油圧ブレ−キ・シリンダーを可動させる仕組みでパーク・ブレーキ・レバーも兼ねます。


また主輪ブレーキは単板デイスクだったのはこの時代の英国でこのクラス機にしては新技術採用でした。

(見難い解剖図ですが、ご想像を 佐伯邦昭

 

・ すぐにクラッシュ
 
 しかしこの珍しさも操縦を難しくしているようです。日本での本機JA3062は、戦後の航空再開間もなく伊藤忠商事が輸入して1953/06/26に登録ましたが、約2ヶ月後の1953/08/31に藤沢飛行場で最初の飛行の着陸の際に、前脚クラッシュで破損してしまいました。

 おそらく初飛行前の慣熟でポーポイズ傾向(操縦輪の慣れない上下エレベーター操作もあってか?)があってマス・バランスをつけたのでしょうか? 


 それでも初飛行ではバルーニングを繰り返して最後は地面に激突してしまいました。
たった1度の飛行で飛行機としての生涯を終えましたが、従来の操縦に慣れたパイロットにはこのクリスレア操縦法は大変だったと想像します。

航空情報誌が伝えた事故状況



 


・  おかしな速度計

 今はこの展示館で本機を見られますが、速度計に不思議なMPRなる文字が表示されています。通常の速度計はMPH(Mile Per Hour)ですが、このMPRの「R」の意味が不明でした。さらに表示の速度巾が本機は最大速度でも120マイルくらいで最大降下速度(MAX Diving)でも160マイルなのに240マイルまでの表示があり、その表示巾も通常速度計より大きすぎます。

 

 高専に問い合わせたら40年以上?前の学生たちがダミー計器にMPHと書くところをMPRとミスしたのではないかとのことでした。そう言えば高度計の気圧較正ノブも見当たらないので本機の計器類はダミーのようです。

 

クリスレアCH3シリーズ2 スーパーエース JA3062の経歴

 

c/n112 G-AKVD 

1953/06/26

JA登録 全日本航空整備協会

1953/08/31

藤沢飛行場でクラッシュ

1953/12/08

抹消登録

1956/01/27

都立航空高専→産業技術高専


 

諸元(都立航空高専発行の科学技術館パンフレットによる)

全   幅

10.97m

全   長

6.55m

全   高

2.06m

全備重量

1061kgf

最大速度

203km/h

エンジン

デハビランドDHジプシーメジャー 145hp

 

・ 後のシリーズ機では操縦システムが改められている

 この扱いにくい操縦システムは、その後のシリーズ4スカイジープでは、ラダー・ペダルが設置され、操縦輪から操縦桿に変更されているので、やはりユニバーサル・ジョイント式は問題で改修されたようです。


参考ホームページ 

http://en.wikipedia.org/wiki/Chrislea_Super_Ace

http://www.airport-data.com/aircraft/G-AKVD.html