2003年の試乗会で好評と報道され上々のスタートを切ったボンバルディアDHC8-400(以下Q400という)でしたが、トラブルが頻発しているみたいで、本年に入ってからの高知新聞は上のとおり賑やかです。
特に、高知では伊丹との14便すべてがQ400ですから関心が高く、全国的なニュースには載らないような些細なトラブル、しかも他線で起こったことでも逐一報道されるわけです。県民感情というか、地元マスコミとしてやむを得ない面があると思います。
1月25日の自営業の方の投書は、自家用パイロットもしくはかなり知識を持っているヒコーキマニアではないかと推察される文章で、「エンジン系統、操縦系統の油圧が低下したら、脚が出なかったら、貨物室の与圧が低下して客室の床が抜け、操縦ケーブルが働かなくなり大事故になった例‥‥。 ヒューマンエラーも怖い。警告灯がまた異常点灯だとパイロットが見過ごす‥‥。」等々一見専門家かと思わせるところがあります。
その結論が、国土交通省は直ちにQ400の型式証明を取り消し、代替機による運行を勧告すべきと、エア-ニッポン幹部を震え上がらせるような見幕です。
それを受けた形のように、1月28日社会面トップには8段で大々的に書き、30日の社説で追っています。
その要旨は、エア-ニッポンネットワーク1号機(C-GDLK JA841A)の脚油圧配管の接合部に20箇所の隙間が見つかり、ボンバルディア社へ持ち帰り検査したところ、製造段階のミスと判明したので、同社は3月に最終報告を出す予定、そして、それは、世界で800機の運行または運行予定のQ400に影響を与えそうだというものです。
社説は「大阪便は問題機以外に選択肢がない本県の利用客にとって、真摯(しんし)に応えることが国と全日空の責務である」と結んでいます。
高知新聞の記事をそのまま信じていいのかどうかはわかりません。
公表データではQ400の故障はそれほどでもない?
全日空がホームページで公表している運行情報の欠航と引き返しリストにおいてDHC8が他の機種よりも際立っているようには見受けられませんし、また、某航空技術者の方に航空局発行のTCD(重要故障の改修、修理指示)
を05年1月〜06年1月の13ヶ月にわたってチェックしてもらったところ、下表のとおりであり、Q400が多いか少ないかは見る人によって違うでしょう。
旅客機機種 |
TCD件数 |
DHC8-100〜300 |
2 |
DHC8-400 |
6 |
B737-200〜900 |
1 |
B767-200〜400: |
14 |
B747-200〜400 |
37 |
B777-200〜300 |
10 |
DC-9〜MD90 |
11 |
DC10〜MD10 |
30 |
A320-321 |
22 |
A300 |
32 |
F-50 |
6 |
YS-11 |
1 |
AH-66 |
14 |
SF340A,B |
1 |
SAAB2000 |
1 |
BN-2 |
1 |
因みに、Q400の6件の内容は、電気配線、尾翼取り付け部ボルトの締め付けトルク値、燃料タンクのアンカー・ナットの腐食、主脚アップロック解除の不具合、ピトー管内部の閉塞不具合などの改善指示です。
高知線で大きく取り上げられている脚の油圧作動に関しては、05/09/07発行のTCDで「主脚アップロックが解除できず、主脚が展開できなくなる不具合防止」というのがありました。
脚格納のロックと解除はロック用油圧作動筒によって行います。通常は脚柱のある部分と格納室構造との間にフック(鉤)を掛けて固定します。脚出しはまず油圧作動筒でアップロックを外してから脚下げ用油圧作動筒で脚下げをします。しかしアップロックが外れないと脚下げができないようになっています。そこの不具合を改善せよというものです。
2003/07/19 高知空港での試乗会 かつお
2 故障とは
さて、新聞報道による故障の多くは油圧系統と電気系統のようです。
Q400の油圧システムは、メインは4システム独立で、おのおの次役割を持っています。
No.1
No.2 |
エンジン駆動油圧ポンプで操縦動翼、脚上げ下げ、前輪ステアリング、主輪ブレーキ用
(No.1
No.2ともバックアップあり) |
No.3 |
直流モーター駆動のアキュムレーター(蓄圧器)で、非常時(No.1と2が不作動時)用エレベーター・操作パワー |
No.4 |
手動操作の非常脚下げ用 |
見るところQ400だけに特有の装置というものはなく、どこの会社でも使っているシステムですが、何か新機軸を取り入れて部品の構造や材質に強度不足でも生じているのでしょうか。
上記のTCD「主脚アップロックが解除できず、主脚が展開できなくなる不具合防止」に関しては、普通ならすでに指示どおりの改修か、修理作業は完了しているはずですが、まだトラブル発生があるとなると、メーカー指示の作業では不具合解消にはなっていない
のかもしれません。
また、電気については、油圧だけでなく燃料、圧縮空気などもほとんどが電気回路を通じて操作されます。つまり操縦士が機械的レバーを操作しても、結局は電気回路の入切スイッチ操作なのですから、脚の油圧不作動などが電気的トラブルによるものとも想像できます。
バスターブ・カーブ
さて、これからが本番ですが、航空機に故障はつきものだという常識です。某航空技術者の方の解説を引用します。
一般的に、新機種と新造機は就航後初期故障が多発して、これが「初期故障期」です。
次に、飛行時間の経過とともに俗にいう「なじんでくる安定期」に入りトラブルが減少します。
しかし、さらに飛行時間の累積増大に伴い各部に「ガタがくる劣化期」になり、またトラブルは増加傾向になります。
これをバスターブ・カーブ(西洋風呂桶の構図)と言います。人間の一生と同じです。ヒコーキも安定期が長いほど良いヒコーキと言われるわけです。
また、機体の大小による違いもあります。大きい機体は
多数の装備品(計器、油圧、電子電装品など)とそれら自体の部品数も多く作りも複雑ですから、小型機よりもトラブルは増えます。しかし大型機はバックアップ・システムが小型機よりは備わっているため 、大事に至らず安全性が高いのです。
ANAのホームページに載ったトラブルは運航ダイヤに影響したものだけですから、その発生率でいえば0.00数%の小さな数字にすぎません。しかし、運行に影響しない程度のトラブルは多発していると考えた方が自然です。
現場においては、設計品質、材質品質、製造品質は限度があって、故障したり、劣化したりするのは当然とする認識があります。また、そういう感覚を持っていなければ、事故を防ぐことができないのです。自然法則に逆らって飛ぶヒコーキは、放っておけば落ちるのが当たり前を人間の英知と努力によって支えてやっと飛んでいるの
です。
飛行前に完全無欠なまでに時間をかけて虫眼鏡的にチェックしても、見えないところが痛んでいる可能性を否定できませんし、経済運行という建前での人員や時間の制約もあります。近時、初歩的トラブルが多発するのは、会社の風土とか社員に安全意識が希薄なためとか言われますが、実際には、
飛行機が増えたのと一般に報道される度合いが増えただけのことであって、故障の発生そのものはそんなに変わっていないと思います。
また、TCDなど改善指示がでても、一度ですべてが改善されるとは限らず何回かの改修が出てやっと不具合が改善されるというものも現実にはあります。各種部品を換えても直らない場合はそのシステムか複合システム全体に問題があって
、全体の整合調整が必要になり機体を止めてじっくり時間を掛けないと直りません。十分な地上試験と飛行試験も必要かもしれません。
新聞報道によると、高知も松山も佐賀でも、欠航を除いては、手動などのバックアップ機能が働いて無事に着陸し、重大事故には立ち至っておりません。ということは、トラブルが発生しても設計通りにバックアップ安全性機能が保たれていることにもなります。
ただし、整備陣がバックアアプに安住し、満足しているわけでは決してないことは言うまでもありません。非常操作などすることのない安全運行と定時運行を心の底から願って業務に励んでいると信じています。
3 Question about
Q400
in Kochi
そこで、Question about
Q400 in Kochiであります。
今のところ、全国紙は取り上げてないようなので、高知のローカルニュースみたいな形になっています。3月にボンバルディア社がQ400の油圧配管の調査結果を発表するそうで、それまでは隙間に金属テープを巻いてしのいでいるそうです。
「金属テープを巻いて」などとちょっと信じられない記事じゃありませんか。見て来たような嘘をつきという言葉がありますが、20箇所もの隙間があるという欠陥パイプについて、整備現場がそんなところを記者に見せたのでしょうか。
私は、高知新聞の記者がエア-ニッポンの整備現場をじっくりと取材して話しを聞いているのか、かつ、エア-ニッポンは取材に対して懇切丁寧に応対しているのか、非常に疑問に思います。事は人命にかかわることですから、客商売で言いたいこともいえないなどと引きこもらずに、是々非々で対応してもらいたいものです。
マスコミも欠航や引き返しに遭遇するたびに腹を立てて、熊さん八っあん的な対応で航空機に対する不安をあおってはいないでしょうか。
一見専門家かと思わせるような投書を載せるのは自由ですが、記事や社説で追い討ちをかけるのなら、もっと丁寧な取材、例えば全日空よりも先にQ400を導入しているJACの話しも聞いてみる、更にはボンバルディ社へも行ってみるくらいの慎重な対応があってもいいでしょう。
高知において、大阪まで3時間のJRか、45分のヒコーキ
かの住み分け既に確立しているものと思います。だから、この新聞報道くらいで航空便への信頼が著しく揺らぐことはないとしても、なお新聞社も航空会社も冷静に対応してもらいたいものと願います。
Question about
Q400 in Kochi = Quality
of
Q400 in Kochi となりますように。
4 後記
マスコミや航空会社にいろいろと注文をつけている佐伯に、じゃあお前はきちんと取材しているのかと指を刺されそうですね。その批判は甘んじて受けます。
私は購読料も運賃も何も頂いておりませんので、言うだけのことは言わせていただきます。ただし、無責任な指弾はしていないという自覚をもって。