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航空歴史館 技術ノート

掲載22/11/15
更新22/11/19

 


空自F-86Fのドロップタンクの考察

文、イラスト 吉永 秀典 

 

 

 空自F-86Fのドロップタンクの考察

吉永 秀典
  

 次の2機のF-86Fドロップ・タンクの容量は何ガロンでしょうか?

写真-1 


写真-2


 正解は「200GAL-FIN」の空自機と韓国空軍機で日本ではもう実物も見られない貴重なタンクの写真。 空自の402号機はこのHPに投稿された古谷氏の許しを得て「航空自衛隊歌・浜松」の絵葉書から再現した写真と、韓国空軍機は当方が1962年2月撮影した一見普通の120ガロン・タンクに見えるが実は200ガロンのボリュームのあるドロップ・タンクです。 
 韓国空軍機はIRAN整備のため飛来していたもの。

  日本ではこの大型「200GAL-FIN」タンクは米国MSA協定により供与されたタンクの一つであったが、運用上の理由により短期間で姿を消した事実は意外に知られていない。航空機専門誌やマニア達も認識しなかった為に、最近まで「120GAL」として誤って解説した記事と図面が多く残されたのが現状。
  この200GAL-FIN付きタンクは韓国では最後まで使用したので、戦争博物館や記念公園などで今も相当数を展示されているのは羨ましい限り。もちろん米本国では当時の主装備であり、F-86Hも標準装備していたしQF-86Fなどでは後年まで使用されたのはよく知られているところです。

 ここで空自F-86Fのドロップタンクの種類を整理したのを紹介します。これが真実です。

イラスト-1 

 1. 燃料容量による分類では「120GAL」と「200GAL」の2種類

  1) 120GAL-FIN:DELTA-FINが基本で後半はSTUKA-FINに改修。4か所の全ポイントに装着できるが、INBOARDに限りFERRY-BEAMを先に取り付けてウィングフラップの全下げを可能とする。

 2) 200GAL-FIN付きとFIN無しの2種類:どちらもOUTBOARD位置にしか装着できない。 このFIN付きタンクは120GALよりボリュームがありSTUKA-FINも形状が異なるも短期間で消滅した。  200GAL(FIN無し)は円筒形のスマートなデザインでパイロンに吊るす型。 Blue Impulseはこちらで運用した。

  2. 投下方式による分類は「自重投下式」とパイロンに吊るす「強制射出式」の2種類

 1) 「自重投下式」は「非・強制射出式」とも言うが、初期の装備は全てこのタイプで120GAL-FIN と 200GAL-FIN付きがある。どちらもパイロンと一体構造で側面にSWAY-BRACEが付く

 2) 「強制射出式」はパイロン内部の火薬によりタンクを射出するタイプで120GAL-FINと200GAL(FIN無し)があり、どちらもパイロンの下に吊るすタンクでSWAY-BRACEは付かない

 ☆☆☆ 以上の両者の違いを理解すればハチロクのドロップ・タンクがよく見えてくる。

 3. 自重投下式DROP TANKの120GAL-FINと200GAL-FIN付きの細部

イラスト-2

 1) 120GAL-FIN:タンクとパイロン部は一体構造であるがF-86D型の前縁は垂直、F-86F型には傾斜角がありどちらも前縁先端が機体側に湾曲しておりその揚力差で外側に押し続ける機能がある。
 パイロン部の中央上部のDSHACKLE(LATCH)で主翼下面のタンク・ボルトの頭部を掴み固定し、ISWAY-BRACEによりタンクの横振れを支える。
 F-86DとF-86Fのタンク本体は共通するが主翼を改良したF-86F用はパイロン部の寸法が異なるのでD型には付かない。
 このタンクはINBOARD専用型がありパイロン前縁に傾斜角のないものが付く。 
 FERRY BEAMの前縁に垂直型もある。  DELTA-FINがORIGINALであるが後には縦型の「STUKA-FIN」に改修されF-86Dや国産T-1A/Bにも採用された。
 よく観察すると初期と後期のタンク本体のパネル構成は溶接部などの形状が異なる他、H給油口のキャップもマイナス・ドライバー式と工具不要のバヨネット式がある。

  2) 200GAL-FIN:前項の120GAL-FINを大型化しほぼ同じ形態をしているがOUTBOARD専用。
 ボリュームのあるタンク体とISWAY-BRACE及びSTUKA-FINも大きいのが識別のポイント。また燃料給油口のキャップはH「マイナス・ドライバー型」しか無いようだ。PAD類は一部省略。

 4. 強制射出式パイロンとドロップ・タンクの細部

イラスト-3

 1) WADC TYPEV製「強制射出パイロンに120GAL-FIN又は200GALタンク」はOUTBOARDにしか付かない。
 パイロンの内側にPYLON-BRACE(振れ止め)があり翼下面にボルト止めし、パイロン下面の4本の腕とタンク振れ止め調整ボルト4本でタンクの横振れを防止する。

 2) パイロン内部の2か所にPYLON CARTRIDGEを内蔵し前後2か所の BTANK LUGと中間のTANK JETTION PISTONとを連結し、ガス圧でLATCHを開くと同時にピストンを射出しタンクを素早く確実に投下する方式。
 これにより機動飛行や背面時にも投下可能となり生存性を高めると共に頑丈で高価なパイロンを何度も使用でき、タンク以外の兵器にも対応できるようになった。 
 もしクラッシュ・バリアーにヒットする時は瞬時に投下出来ることで安全性を高め、自重投下式タンクの減退を速めた。また図らずも胴体着陸などの時にパイロンで衝撃を受け止めて機体の損傷を最小で済んだ例は少なくないようだ。
 このパイロンにタンクを取り付ける作業はとても簡単で短時間で済むようになった。

5. (非・強制射出式)タンクと強制射出パイロンについて

 1) 自重投下式のタンク投下時に機体からなるだけ遠くに落下させる仕組みが面白い。
  「自重投下式タンク」のパイロン部の前縁を内側に湾曲させ、その揚力差で内側の圧力を高めてタンクを常に外側に押している状態を作り、タンク投下の初動でタンク側面のSWAY-BRACEのSWING-JOINTのボール部分で外側に回転をはじめ、ある角度でジョイントが外れながら更に外方へ落下させる面白い仕掛けである。
 この時ボルトで固定したUPPER SWAY-BRACEのみが残りそれ以外のパイロン一体構造のタンク全体が投下され、機体とタンクのパイロン部の位置を決める中間の前後PADも落下する。
 タンク投下時に慣性でタンクが並走しようとするのでFINで下に引き離す安定板だが「DELTA-FIN」に対し「STUKA-FIN」は投下後の安定を更に高める縦型FINに改修したもの。 「STUKA-FIN」への改修は製造会社やIRAN整備時(MHI)の他、各運用部隊の整備部門(1空団機体修理班など)で改修キットにより改造作業のため、列線整備員(筆者も)などが「ORIGNAL-FIN」の取り外しと「STUKA-FIN」に改修済みFINの取り付け作業などを(タンクの数だけ)自分たちで行った。(1空団は最多運用部隊)

 補足:
  「STUKA-FIN」の読み方は“スタッカー・フィン”は米語発音の ようですが“スツーカ・フィン”の英語でもよいようです。“スタッカ”とは「平行の・・・並列の ・・」などと言う意味のようです。

イラスト-4

 2) タンク投下方法の「電気式」と「機械式」について ドロップ・タンクを投下する方式には通常の「電気式」と緊急時や地上整備時に行う「機械式」があり、正しく理解して操作しないと重大事故に繋がる。
  「自重投下式」での電気式は、コックピットの切り替えスイッチにより左/右単独または左右同時を選んで投下できる。 系統の不具合などで投下出来ない時は機械式「手動ハンドル」によりすべてを投下出来る。 整備作業などの点検ではどちらの方法でも操作可能である。

☆ここで「なぜ自重投下式200GAL-FINタンクは日本の空から消えたのか?考察」

 彼の朝鮮戦争でMiG15と共に成長したハチロクは、その後同盟国での運用が始まると同時にその環境に合わせた改良も進められ、日本の狭い空域と短い滑走路などに適応する装備の一つが「強制射出パイロン」登場により、信頼性の低い自重投下式タンクが減耗した。
 この時「120GALタンク」は“新パイロンに適応する改良”を受け「強制射出式」として再使用または生産され、余剰分はF-86DとT-1A/Bにも装備した。
 一方「200GAL-FINタンク」は外径が大きいのと強度不足により“改修不可能”となり、全てが米国へ返還されたようで、あのデカ・タンクは残念ながら今日本では影を見ることもできないのだ。
 なお前述のF-86DにはF型タンクに「スタッカー・フィン」付き、T-1A/Bにも同様に改良され、さらに“フェリー・ビームのような低い補助パイロン”の「板ばね式半強制投下式タンク」として装備されたと言われる。
 それらは全てF型のタンク本体そのままで使用された。

  3) 「強制射出式」(WADC TYPE V PYLON)の場合は前項と何も共通しない。
 こちらは「電気式」と「機械式:手動ハンドル」ともに最大の特徴である「CARTRIDGE」のガス圧のみによる投下方式であり、空中でもし発火しない時タンクの投下は絶対に不可能である。
 整備作業などで「手動ハンドルによる投下」試験および地上でタンクを取り外す時は、前もって必ず「火薬カートリッジ」を取り外した後にイラスト図の「TANK RELEASE LEVER」をドライバーなどでこじって切り離す。
 他の方法は何もない。さもないと重大事故が起きる。
 パイロンの翼型断面はこの「強制射出パイロン」にも受け継がれているのはあまり知られていない。

6, 4本タンクの例を幾つか紹介する

写真-3


 少し前に「4本タンク」の話題があったが、120GAL-FINの4本タンクもあった。
 OUTBOARD位置に「強制射出パイロンと120GAL DELTA-FIN」、INBOARDの位置には 「FERRY BEAM PYLON」に「自重投下式の120GAL-FIN」を吊るしており特徴のあるかなり長い「SWAY-BRACE」が見えている。 この120GALタンクのみの組み合わせはかなり珍しい。
  本当は「200GAL-FINと120GAL-FIN」の4本タンクの画像を紹介したいところですが、残念ながら自分の写真がないので何方かの投稿を期待しています。

写真-4


 F-86Fの4本ドロップタンクで120GAL-FINと200GAL(FIN無し)10SQ機 当時は移動訓練などで装着したと思われるが他に記録がないので詳細は不明

写真-5


 前項と同じ組み合わせで沖縄への遠征には4本タンクが必要であったが、タンク重量と空気抵抗増に加え後部燃料タンク(約105ガロン)をスモーク・オイル専用に改修のため燃料容量が減少し、 航続性能は5割増しとはならなかったようだ。

 7,  F-86Fドロップ・タンク変化の記録 (イラスト-5)F-86Fドロップタンクの各種

  終わりにおまけでF-86Fドロップタンクの歴史において色んな専門誌などの写真からイラスト図にしたものだが全部を説明するには誌面不足。
 ただ先輩のF-80のタンクなどを参考に試作されたのは間違いないようで、例えばF-80のチップタンクから転用された120GAL /165GAL MISAWA TANKなどかなり影響を受けているのが分かると思います。
 今後何方かの投稿を期待したいと思います。

イラスト-5

 


編集掲載日 : 2022年11月14日
WEB編集  :  イガテック  

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