高田 天敵さんが佐伯 邦昭さんへMARTIN社 P4M-1Q MERCATORの模型写真の提供と思い出話に始まり、技術的に詳しい 山内 秀樹さんへの問いかけと見事な回答という絶妙なコンビネーションがベテランの方たちのなせる業ですね。
高田さんのソリッドモデル紹介から山内さんの説明への流れで進めさせていただきます。
MERCATORの生産機数が少なく残る資料もあまりない中でのお話をお楽しみください。
佐伯さんより
驚いた瞬間を思い出して見事な模型製作
岐阜のソリモ名人が若かりし頃:1959年7月6日伊丹に偶然降りてきたマーチンP4M-1Qマーケーター、北朝鮮に銃撃された機体が新明和に何度か飛来していたそうです。
それから60余年、ようやく思い叶ってソリッドモデルに仕上げました。見事な作品です。提供ありがとうございました。
高田さんの解説 『マーケーターは、P4Y-2プライバティアの後継機として計画されましたが、対潜機のP2Vでも用をなすとみられ、19機の生産に留まり、海洋哨戒に始まり電子偵察機で終わりました。
この124363
VQ-1
PR-3は、撮影の翌年厚木でスクラップとなりました。
一見双発機ですがR-4360とJ-33各2基の4発機・大きな機体です。プライバティア(所詮はB-24)と同じくらいの大きさです。離陸だけでなく着陸時にもジェットは使うのでナセル下の吸気口は開くのが正解・・・。』
高田天敵さん提供写真
撮影 1959/07/06 伊丹空港 高田 天敵 クリックで拡大します
高田天敵さん制作ソリッドモデル
撮影 2021/02/24 高田 天敵
佐伯 邦昭さんから 山内 秀樹さんへの問いかけと回答
問
FacebookにP4M-1Qを取り上げました。
ワスプメジャーとターボジェットのの燃料は、どうしていたか、教えてください。
高田さんの記憶によると、着陸時もジェットを使っていたということですが、山内さん 見たことありますか? 佐伯 邦昭
回答
P4M-1Qの燃料はAvGasでGrade 115/145 Spec Mil-F-5572一本です。
つまり、戦後米軍が使用した最もパフォーマンス価の高い(100を超えるのでオクタン価とは言わない)航空用ガソリンしか搭載しません。
搭載容量は内翼タンク計2,000Gal+外翼タンク計800Gal+爆弾倉タンク計1,400Galで合計4,200Gal.
R-4360-20レシプロエンジンは115/145でなければ機嫌よく回ってくれませんし、J33-A-10ジェットエンジン用に別に燃料を積むとなると下手をするとデッドウェイトになるので、もったいないですが、ジェットエンジンもこの「ハイオク・ガソリン」で回しています。
J33が燃料をガブ飲みするので、離陸時、高高度電子情報収集飛行時、着陸時に限ってジェットエンジンを使用します。
着陸時もゴーアラウンド(米海軍用語ではウェイブオフ)に備えてJ33を始動します。
だから、伊丹に着陸するためにダウンウインドで私の小学校の上を低空で通過していましたが、いつも、ブーンと飛んできて、ゴーっと飛び去っていました。小学校低学年の頃はP4M-1Qのエンジンナセルの後部にJ33が仕込まれていることを知らなかったので、別にジェット機が飛来していると勘違いして、キョロキョロと幻のジェット機を探したことがあります。
高学年になって航空雑誌等でレシプロ・ジェット混合動力の飛行機であることを知り、納得しました。「ブーンと飛んできて、ゴーっと飛び去る」機体には他にノースアメリカンAJ-1/-2サベイジがありました。
あいつは後部胴体内部に同じJ33-A-10を仕込んでおりました。
同様に離陸(離艦)時、戦闘(核攻撃)時、着陸(着艦)時にR-2800用のAvGas、Grade 115/145 Spec
Mil-F-5572を燃やして飛んでおりました。
レシプロ・ジェット混合動力機はAVGASのみを搭載し、離着陸と戦闘時に使用を限定、ケチりながらジェットエンジンを使用していました。
一般にレシプロ・ジェット混合動力機のミッションプロファイルは、ジェットエンジンを動員して離陸・上昇後、ジェットエンジンを停止して与圧も酸素マスクも必要のない高度5,000ftあたりでトロトロ巡航して進出、戦闘空域に突入する際にジェットエンジンを始動し、乗員は与圧服を着用、酸素マスクを着用し、高度を稼ぐなり、高速度で戦闘を切り抜け、ジェットエンジンを停止、高度を徐々に5,000ftぐらいまで下げて、酸素マスクを外し、リラックスしながらトロトロ巡航しながら帰投する。
B-36D以降のコンベア・コンカラー戦略爆撃機も同様。
B-36のミッションは24時間もあり、その間窮屈な与圧服を着用したまま飛行することはありえず、敵地に近づいた時点でやおら与圧服を着用し、戦闘配置についてシートベルトを締め、与圧室を与圧する。
与圧中は半球形の防御火器照準窓が破損すると乗員が機外に吸い出される可能性があるので、各自必ずシートベルトを締める必要があった。
戦闘空域を外れると高度を下げて与圧を停止、与圧服を脱ぎ捨ててリラックスする。
但し、電子情報収集機としてのP4M-1Qのミッションプロファイルは、VHF帯以下の波長の短い敵性電波を収集するために、高度を上げてレーダー水平線を押し広げ、見通し距離を稼ぐ必要があり、速度のため(レシプロのみで241kt/6,000ft、ジェット併用332kt/20,000ft)でなく、高度を稼ぐため(レシプロのみで上昇限度17,500ftに対しジェット併用31,000ft)にかなり長時間にわたってジェットエンジンを使用していた。P4M-1Qは与圧室が無かったので、全員酸素マスクをつけて長時間の高高度飛行に耐えながら電子情報収集ミッションをこなしていた。
ややこしいのは、AJ-1/-2や、ボーイングKB-50J/K、後にはボーイングKC-97Lなどのレシプロ・ジェット混合動力機が空中給油母機として「売り物」のジェット燃料JP-3,
JP-4,
JP-5等を自機用燃料タンクとは別のタンクに搭載するようになったこと。
レシプロ・ジェット混合動力機が空中給油母機になったのは、ジェットエンジンを併用して空中給油を受けるジェット機の速度・高度に合わせて空中給油を実施できる利点から。
実際に運用してみると、遠路はるばる侵攻するジェット戦闘機やジェット戦略爆撃機に空中給油を行う場合、ミッションによっては基地から遠く離れた空中給油空域まで足を延ばしてもらいたいとの用兵上の要求も出てくる。
そうすると搭載したAVGASだけでは無理なので、「売り物」のジェット燃料を自機のジェットエンジン用に「つまみ食い」させてもらいたいとの要望も。
AJ-1/-2はお行儀よく、「売り物」を「つまみ食い」することは無かったが、KB-50J/K,
KC-97Lは後にクロスフィード配管改造を実施、「つまみ食い」を可能とすることにより、運用に柔軟性を持たせることができた。
山内 秀樹
P4M-1 技術資料
機体図面 (Standard Aircraft
Characteristics NAVAVER 1335A Rev.1-49 1952/02/01抜粋) 提供イガテック