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航空歴史館技術ノート 掲載04/11/14

 航空機部品管理について 発想の転換を

1974(昭和49)年度会計検査院の指摘から

1975年記 佐伯邦昭 

(1975年にヒコーキの会機関誌ヒコーキ雲用に執筆しましたが、未掲載です)

 

デッドストック部品の有効活用ー航空自衛隊の例 

 航空自衛隊のF-86F及びRF-86Fはここ数年のうちに全機廃棄処分とすることが1973年に決定された。 (注:実際には1982年3月に最後の機体が退役)

 これに伴って航空自衛隊が保有しているF-86Fの修理用部品が不要になってくるので、全機廃棄の時までにできるだけストックを減らしておく必要がある。そういう観点からの修理用部品の管理方法の改善についての会計検査院の指摘が行われたので私見を交えて概要を紹介しておこう。

 F-86Fの修理用部品のストックは約1万1千品目である。これらの中にはひんぱんに出庫するために、毎年度一定数を調達補充しておかなければならないものと、殆ど使用されることがなく、いわゆるデッドストックになっているものとがあり、後者の中には全機廃棄の時まで置いても殆ど消費される見込みのないものも多くあるわけである。

 このような過剰在庫品は、F-86Fの取得の際に同時に調達した修理用部品(機体価格の約20%)の中に、メーカーや防衛庁の見込み違いによる品目があったり、オーバーホールで使用不能として廃棄された部品を更にばらしてみたところ、まだ使える子部品があり、これらを庫入れしていること等により発生しているものである。

 一方で、航空自衛隊は補充用部品を毎年度1億円から2億円の予算で調達しているのであるが、デッドストック部品をうまく活用して予算を節減できないだろうか、それが今度の会計検査の着眼点であった。

 

 主脚ブレーキに例をとってみる。

 主脚ブレーキは非常に消耗が激しく、毎年一定数を補充し、主脚ブレーキを構成する油圧のピストン、シール、クランプ、ボルト、ワッシャーなどの子部品をすべて業者に新しく製作させて組み立てさせるのが現在の調達方法である。

 しかし、過去に廃棄されている主脚ブレーキから取り出されている子部品で使用可能なものを業者に支給してやれば、相当の無駄がはぶかれるのではないか。

 調査の結果、1973(昭和48)年度に業者発注によって補充調達した主脚ブレーキほか3品目約1億8千万円分について、航空自衛隊がストックしている子部品から23,569個が使用可能であると判定された。官給材料として支給しておれば、補充調達の経費は約2千万円節減できたと考えられる。

 中古部品を新品の主脚ブレーキに取り付ける場合のなじみの問題については、会計検査院は、業者の意見も聞いており、航空機部品は厳密な品質管理体制のもとに製造されているので、その入手経路が明らかで状態が良質であれば構わないということであった。

 以上が会計検査院の指摘である。修理用部品としてストックしていたものを新規調達の親部品に組み込むという発想の転換でこれだけ節減できるという。30年前の2千万円といえば安くはない。

 ただ、万一戦争が起きて消耗が激しくなれば、23,569個の部品もあっという間になくなるかもしれないから、現場の長としては、判断の難しいところではある。検査官も、米軍方式で職能が細分化し、末端では安全・確実を求める考え方が浸透していて、発想の転換をはかることに抵抗があったと述懐している。

 

不要部品の調達ー海上自衛隊の例

 同年度の報告書から拾った無駄遣いを書いておこう。

 PS-1に搭載しているT-64-IHI-10エンジンについて、1971年5月から重量軽減のためにブレード空転防止用のプロペラブレーキを全機取り外しているのに、それ以後購入するエンジンには依然として付けさせている。1個27万円で、無駄な購入となっている。

 対潜魚雷アスロックのテストセットMk432 MOD改(アスロックが指令を正常に受けているかどうか、深度は適正かどうかを母艦へ送信する装置)及びプリセッターを1セット931万円で購入しているが、アスロックにこれを装着する装置がないので、まるまる無駄になっている。

 

結論

 海上自衛隊のケースは何を考えて仕事をしているのかということの典型であるが、会計検査院の報告書には、各年度三自衛隊について似たような指摘がたくさん載っているはずである。

 航空自衛隊のケースは、頭を働かせたらデッドストックはなくなる、経費は節減できる、資源の節約にもなるといういいことずくめの提言である。

 三自衛隊の中には、改善意識を持つ隊員がたくさんいらっしゃると思うが、組織の中に提案しにくい空気があったり、愚かな上司が聞き流して、トップに伝わらないといった欠陥があるようなら、国民は会計検査院に期待するしかないのである。