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航空歴史館技術ノート 04/09/28

自衛隊用途廃止機の貸与の法的根拠について

 

この問題を取り上げた経緯

 自衛隊が使用した航空機の用途廃止後の行方については、現在価格の億円単位で調達された 非常に高価な物品であり、また、軍用機として最先端の技術を結集したものでありますから、 誰しも大きな関心を抱きます。

 用途廃止機の始末については次のような道筋があります。

 @ 売り払いが可能なものはスクラップとして切断の上、競争入札
    → a 落札者が金属屑として売却、余分は産廃処理
    → b 落札者が保管し、希望者に丸ごとまたは部品等分解して販売
    → c 購入者が保管、展示又はネットオークション等で販売

 A 売り払いができないものは、廃棄処分

 B 法律(下記)の規定により希望者に無償貸与または譲与 
    → d 貸与を受けたものが、貸与目的に沿って展示 貸与期間は更新可能
    → e 貸与終了後、防衛庁へ返還、@により処置

 C 各部隊(航空自衛隊の場合は第二補給処など)に保管し、行事などに使用
    → e 用済み後は@又はAにより処置

 今回、ヒコーキ雲上で問題になったのは、Aのケースで秋田県山本町へ貸与されたロッキードT-33Aが、日の丸や記号をすべて塗りつぶされ、町のシンボルマークが大きく画き入れられていることからでした。

ヒコーキ雲から防衛庁への質問

 ただいま、自衛隊機の貸与展示を巡って議論が起きております。それは、秋田県の一自治体へ貸与されたロッキードT-33Aの日の丸や記号が消されていることからです。長官のご感想をお願いします。A2424-1参照

 


防衛庁長官官房広報担当からの回答

 先般、石破長官あてにお問い合わせを頂いた秋田県山本町のT-33A展示機の標識(日の丸、機体番号等)につきまして、大変遅くなりましたがこれまでに調査した結果と今後の対応につき回答いたします。
 この機体(51-5637号機)は、平成12年に用途廃止された後、米国に返還するために航空自衛隊にて標識を消去しました。
 その後、山本町からT-33Aの貸与希望があったため、米国の承諾を得て同機を平成13年6月に広報展示用として無償貸与したものです。(広報展示機は用途廃止後、物品(実物転用教材)として貸与されます。山本町の展示機も航空自衛隊の物品となっています。)
 貸与後、町では子供達に親しんでもらうとの観点から、町のマスコットを描く一方、説明板を置き、性能、機体諸元を掲示して展示していますが、より一層、防衛庁・自衛隊の広報の目的を達成するため、マスコットと共に可能な範囲で標識を描くよう山本町と調整を開始しました。
 なお、本件につきまして細部のおたずねがございましたら、長官官房広報課事業担当(03-5366-3111)までお尋ねください。

 


本稿では、貸与に当たっての法的基準がどのようになっているかを整理しておきます。

1 基本法

物品の無償貸付及び譲与等に関する法律 昭和22法律第229号

第1条  この法律において、物品とは、国の所有に属する動産であつて、国有財産法の適用を受けないものをいう。
      
用途廃止をする航空機は国有財産法適用除外となり、財務大臣の統制を離れて、この法律による物品扱いと
    なります。(国有財産法施行令)


第2条  物品を国以外のものに無償又は時価よりも低い対価で貸し付けることができるのは、他の法律に定める場合
 の外、左に掲げる場合に限る。
 (1)  国の事務又は事業に関する施策の普及又は宣伝を目的として印刷物、写真、映写用器材その他これに準ずる
  物品を貸し付けるとき
     「その他これに準ずる物品」の中に用途廃止航空機が入ります。また自衛隊航空機の貸与は「国の事務又は事
    業に関する施策の普及又は宣伝を目的として」に限られます。(防衛庁確認済み) したがって、自衛隊機の日
    の丸を消して、漫画絵などを画き入れる行為はこの基 準に抵触する恐れがあります。


第3条  物品を国以外のものに譲与又は時価よりも低い対価で譲渡することができるのは、他の法律に定める場合の外、左に掲げる場合に限る。
 (1)  国の事務又は事業に関する施策の普及又は宣伝を目的として印刷物、写真その他これに準ずる物品を配
   布すると き

第4条  物品を国以外のものに時価よりも低い対価で譲渡することができるのは、前条及び他の法律に定める場合
 のほか、次に掲げる場合に限る。
 
第5条  この法律の施行に関し必要な事項は、各省各庁の長(財政法第二十条第二項 に規定する各省各庁の長をい    う。以下同じ。)がこれを定める。
2  前項の場合には、各省各庁の長は、あらかじめ、財務大臣に協議しなければならない。

   附 則
第6条  この法律は、昭和22年4月1日から、これを適用する。

 2 付属省令

防衛庁の管理に属する物品の無償貸付及び譲与等に関する内閣府令 昭和33年1月10日総理府令第1号)

 (目的)
第1条  物品の無償貸付及び譲与等に関する法律第2条又は第3条の規定による防衛庁の管理に属する物品(以下
   「物品」という。)の無償貸付、譲与又は譲渡については、別に定めるもののほか、この府令の定めるところによる。
 
(無償貸付)
第2条  防衛庁長官又はその委任を受けた者(以下「防衛庁長官等」という。)は、次の各号に掲げる場合には、当該
 各号に掲げる物品を無償で貸し付けることができる。
 (1)  防衛に関する施策の普及又は宣伝を目的として印刷物、写真、映写用器材、音盤、模型若しくは見本用物品そ
  の他これらに準ずる物品を地方公共団体、学校教育法第1条に規定する学校その他当該普及又は宣伝を行う者に
  貸し付けるとき
      法第2条第1項を更に具体的に「防衛に関する施策の普及又は宣伝を目的として」、貸付対象を「地方公共団
    体その他当該普及又は宣伝を行う者」までしぼっています。


(貸付期間)
第3条  前条の規定による物品の貸付期間は、同条第4号の場合及び防衛庁長官が特に必要と認める場合を除き
 1 年をこえることができない。
      1年更新の原則です。これは守られているのでしょうか?

(貸付に伴い要する費用の負担)
第4条  貸付品の引渡、管理、修理及び返納に要する費用は、借受人に負担させるものとする。ただし、貸付の性質
 によりこれらの費用を借受人に負担させることが適当でないと認められるときは、その費用の全部又は一部を負担
 させないことができる。
      各自治体ともに、この費用(主として基地からの解体運搬費)が最大のネックになっておりますが、ただし書き
    をうまく使えば安くできるかもしれませんが、担当の隊員の無償奉仕負担が増えるだけでしょう。


(貸付条件)
第6条  第2条の規定により物品を貸し付ける場合には、次の各号に掲げる条件を付さなければならない。
 (1)  貸付品の引渡、管理、修理及び返納に要する費用(前条ただし書の規定による費用を除く。)は、借受人にお
    いて負担すること。
 (2)  貸付品は、転貸しないこと。
 (3)  貸付品は、貸付の目的以外の目的のために使用しないこと。
 (4)  貸付品について使用場所が指定された場合は、指定された場所以外の場所では使用しないこと。
 (5)  貸付品は、貸付条件に違反したとき又は防衛庁長官等が特に必要と認めたときは、すみやかに返還すること。
2  防衛庁長官等は、前項各号に掲げる条件のほか、必要と認める条件を付することができる。
 
(無償貸付の申請)
第6条  第2条の規定による物品の貸付を受けようとする者は、次の各号に掲げる事項を記載した申請書を当該物品を管理する物品管理官を経由して、防衛庁長官等に提出しなければならない。
 (1)  申請者の氏名又は名称及び住所
 (2)  借り受けようとする物品の品名及び数量
 (3)  使用目的
 (4)  借り受けを必要とする理由
 (5)  借受希望期間
 (6)  使用計画
 (7)  その他参考となる事項
 
(無償貸付等の承認)
第7条  防衛庁長官等は、前条の申請書を受理した場合において、貸付を相当と認めるときは、次の各号に掲げる
 事項を記載した承認書を、貸付を相当と認めないときは、その理由を記載した文書を、申請者に送付しなければな
 らない。
 (1)  物品の品名及び数量
 (2)  貸付期間
 (3)  貸付目的
 (4)  使用場所
 (5)  貸付条件
     防衛庁へ(5)の貸付条件の中に日の丸などを消さない条件を付けるのか質問した回答は次のとおりです。 
    
    通常、展示機は標識(日の丸、機体番号等)を付けた状態で貸与されます。従って、貸与先に日の丸等を描く
   条件は付していません。
    なお、長年の展示により塗装が劣化した場合などにおいて、貸与先から航空自衛隊に対し、再塗装要領や色などの
   照会を受けることがあるそうですが、標識を消そうというような問い合わせは聞かないそうであり、航空自衛隊からも標
   識の維持も含め良好な状態で展示していただくようお願いしているとのことです。

 以下の条文は省略
   附 則
 この府令は、公布の日から施行する。

 

 

 法令というものは見るだけで頭が痛くなり敬遠しがちですが、自衛隊基地でも米軍基地でも民間空港でも「〜したときは法律により罰せられます」 などという看板が林立するこの頃、法律の裏をかく研究も必要だし、彼らが盾に取っている法律を果たして正しく解釈して口にしているのかどうか、対等に話をしてみることも必要でしょう。

 そんな意味で、かなり佐伯流解釈ではありますが、試行的に取り上げてみた次第です。