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航空歴史館技術ノート

  

海軍 航空機製造要領書に書かれたプロペラについて

イガテック

 2020/5/26 

 木製プロペラが国内の博物館等に飾られていることがあります。 当方も大正14年製ハンザ水偵用のプロペラを保管していますが、どのように作られたのか興味を持っていました。プロペラは板を何枚も重ねて作られています。 大正時代に複合材が使われていたということはすごいですね。
 茨城県にあった霞ケ浦航空隊に当時工廠の機能もあり航空機の製造にも関わっていたようで、今回紹介する書類は昭和4年5月 航本機密第284號別冊 という形でガリ版刷りで配布されたものです。
 その中にプロペラに対しての要求事項が書かれており、仕様と言える部分が多数あり、資料性があると思い紹介させていただきます。

   飛行機製造要領書 表紙

第1項 プロペラ

第172條 「プロペラ」とは「プロペラボス」金物及びその付属螺子釘類を除きたる「プロペラ」本体をいう。
第173條 「プロペラ」は特に指定ある場合の外は一般に全備重量状態にて海上面を全力水平飛行中正規回転数に対し正負5%以上の誤差なき程のものなるを要す。
第174條 「プロペラ」強度は計算による外 規定全馬力の40%過負荷力量で10時間連続運転に耐え得るものなるを要す。
第175條 「プロペラ」の回転方向は規定装備にあるプロペラに直面し右に回るを右回りという。
第176條 プロペラ用材は等質性にして特に強靭優良のものたるべく且つ容易に変調せざるものなるを要す。
第177條 木製プロペラの各板材はその内外部を通し強度均等せしもの適良に乾燥せられたるものなるを要す。 特に指定なき場合板材の湿度標準は12から14%とす。
第178條 プロペラ構成板材面の膠着條溝は一般に間隔1粍深さ約0.5粍を適度とす。
第179條 仕上げ完了せる各板材は膠着前適度なる水平並垂直平衡を保有するものなるを要す。
第180條 各板材の膠着加圧時間は24時間以上とし除圧後約1週間通風よき乾燥せる室内に放置し加工作業に着手するものとす。
第181條 膠着作業は第16、23条に準拠すべし。
第182條 木製プロペラボス孔面は干割防止の為 窄孔せば直ぐに第24条による防湿法を的確に施すを要す。
第183條 木製プロペラの仕上面は平滑にして凹凸、波状等なく完全に防湿塗装を施しまた各翔には附図第4の要領で作り翔線保護を施すべし。
    槌打の際 銅鋲の歪曲又は本体に割れを生せさる様留意すべし且つ銅鋲並木螺子の緊締は適良なるを要す。
第184條 金属製プロペラの仕上げ面は平滑にして凹凸波状等なく完全に防蝕せらし且つプロペラ回転面に対して反射光線が操縦或いは機上作業上支障とならざる様 油煙混合「バニツシユ」の如き塗料2回以上を其の面に塗粧するものとす。
第185條 「バリアブル ピッチ プロペラ」の如く特種の機構を有するもに有りては関係の作動は確実円滑にして十分に防蝕せらしあるを要し振動或いは離着水(陸)時の衝撃等のためピッチの変更せさるものたるべし。
第186條 プロペラボス外側に左の事を記証すべし。
  (1)製造所記号
  (2)製年月日
  (3)製造番号
  (4)型式
  (5)飛行機及発動機型式
  (6)馬力
  (7)直径
  (8)重量
  (9)毎分回転数
  (10)螺距
第187條 水上機は平水上の静止並び滑走中の各姿勢時に於いてプロペラ先端と水面との間隔500粍以上なるを要す。
第188條 陸上機は胴体基線を水平とし緩衝装置〜解読不能〜全扁平量の各4分の1作動せし時プロペラと〜解読不能〜300粍以上なるを要す。
第189條 プロペラ翔とプロペラ前方若しくは後方の飛行機機体構成部との間隔は其の点よりプロペラ軸線までの距離の1/35以上たるべし但し最小間隔は15粍以上になるを要す。
第190條 プロペラ先端と飛行機機体構成各部との距離は70粍以上たるべり又同一平面附近に於いて回転する2箇所以上のプロペラ先端間の距離は100粍以上とす。
第191條 危険防止の為 プロペラ回転面の位置を浮再艇体等の適当なる箇所に幅250粍の赤線にて標示すべし。

文中の条項と付図は下記の通り。

 第16條 各種木材の膠着には一般に膠着力並びに耐久性大なる接着剤を使用するを要す。
 1、「カゼイン」接着剤は規定の配合により調剤後5時間以内に使用するを要す。
 2、膠を使用する場合には特に指定なき場合温度摂氏25度乃至30度 湿度70乃至80%の標準大気状態にて通府なき室内にて作業するを要す。
 防腐剤に「フォルマリン」を使用するときは其の濃度標準は(溶液比)水2、「フォルマリン」1とし塗布後30分乃至40分にして膠着をなすものとす。

 第23條 膠着圧力は板材の材質及び寸法により相違あるも10キロ/平方糎乃至30キロ/平方糎程度とし各部均等に且つ木材繊維を毀損せさる範囲内に於いて成るべり大なるも可トス加圧時間は24時間以上とす。

 付図第4

イガテック保管中のプロペラ ハブ部写真

上記ハブの表示様式は第186條の書式にはなっていませんでした。

今回紹介させていただきました文面は漢字とカナ表記でしたが見ずらいのでひらがな表記とさせていただきました。