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航空歴史館 技術ノート 原文作成 03/05/10
修正再掲 04/07/25
投稿追加 04/10/22
1 シンクロナイズド エレベーターってなに?
市ヶ谷駐屯地のUH-1H説明版 ELINT人
水平安定板
シンクロナイズド・エレベーター
垂直安定板
そして、唯一詳しく書いているものとして次の文献がありました。
航空技術(日本航空技術協会発行)89年3月号 私の整備ノート 横山直行 ◎
水平安定板は普通、非対称翼型で、テールブームを通して取り付けられ、前進飛行時、安定板に作用するダウンロードで機体のレベルを保持する。また、ある機体は水平安定板にシンクロナイズド・エレベーターを取り付けて(ベル47のように独自にシンクロナイズド・エレベーターを装備するものもある)、許容重心位置範囲を大きくしている。前進飛行時に生ずる方向の非対称トルクのあるものは垂直安定板(バーチカルフィン)で除去される。
水平安定板とフィンはともに翼型断面をもつ安定翼で、相対風による航空機の姿勢変化を防ぎ、航空機が偏向した場合、機体を元の姿勢にもどす。水平安定板については、許容重心位置範囲を大きくする、すなわち、ヘリコプターが前進するときの前傾姿勢を正常な姿勢に制御する働きをします。アエロスパシアルAS350の水平安定板はマイナス0.40°にセットされているそうです。
しかし、肝心のシンクロナイズド エレベーターについては 「ベル47のように独自に」 としか書いてなくどうもすっきりしません。
2 シンクロナイズド・エレベーターとは
ベルUH-1B型 上下対称の層流翼
H型以降 上面水平の非対称翼
シンクロナイズド エレベーターを直訳すると同調昇降舵です。
メーンローターの羽根はコックピットのサイクリック ピッチ スティック(操縦桿)の操作によって、1回転する間にピッチ角の変更を行い、前進や後退の力を生み出します。 このときに不用な頭下げを抑制するのがシンクロナイズド エレベーターです。
操縦桿を前に倒せば昇降舵の後縁があがり機首上げ、引くと機首下げで、メーンローターの回転面の動きと連動します。
これは、米軍のUH-1Nのシンクロナイズド エレベーター後縁のところに書いてある表示です。
上から、限界ノーズダウン位置、操縦桿を一杯に引っ張った位置、一杯に押した位置の順に黒いリベットが打ってあり、地上での点検に用いています。
(陸上自衛隊のUH-1はなぜかこの文字が消してあります)
同じくUH-1Nを真後ろから見ると、わずかながら右が下げ舵で固定されています。試験飛行中の調整によって、これが最適とされたものと思われ、興味深いです。
2枚の昇降舵は図のようにトルクチューブ1本で繋がっています。これにホーンが付いてそれにロッドが1本繋がってテールブームの中を走ってサイクリックのリンクに繋がっています。
蛇 足
せっかく2エンジン型のUH-1Nに触れたので、ちょっと面白いと思ったスロットルを紹介しておきます。パイロットが左手で操作するコレクティブピッチレバーに輪が二つついています。
上のやや色の濃いのがbPエンジン、下側のやや明るい色のがbQエンジンのスロットルで、表面のぎざぎざも上下で変えてあります。左手で握ってくるりと回してみましたがずっしりとした感触手ごたえでした。
§32-1 HAWKさんから指摘 (03/05/12)
どんな記事になるのか期待していましたが興味深い内容ですね。ただ一箇所気になる所があります。「航空機の姿勢変化を防ぎ、航空機が変更した場合・・・」の一節ですがこれは「航空機が偏向した場合」ではないでしょうか?単なる変換ミスだと思いますが。重箱の隅をつつくような指摘で恐縮ですが多分、意味あいからしてこれが正しいと思います。佐伯から : そのとおりでした。重箱の隅なんてとんでもない。些細なことでもミスは修整しておくべきです。ありがとうございました。
§32-2 にがうりさんから指摘
尾翼
横方向
水平安定板
シンクロナイズド・エレベーター
縦方向
垂直安定板
この表の「横方向」「縦方向」はよく考えるとおかしいです。通常ヒコーキでの横方向はロールで左右バンクや横転をいいます。縦はピッチングで機首を上げたり下げたりする運動をいいます。さらに水平に機首振り(または尻振り)をヨーイングといいます。
これでいうとヘリコプターの垂直尾翼(バーチカル・フィン)は横というよりはヨーイング防止のためかと思います。引用記事では「水平安定板は航空機の姿勢変化を防ぎ」「フィンは航空機の偏向を直す(機首を左右に振る偏向を直す)」という意味で別の役割のはずです。
ヘリコプターの場合の縦は特に前進で機首下げ角を過度にさせないように機首上げの逆モーメントに働く作用をさせるように水平安定板やシンクロ・エレベーターをつけていると考えています。
つまりヘリコプターの水平安定板、シンクロ・エレベーターは「縦方向」作用で垂直安定板(バーチカル・フィン)はヨーイング防止であると思うのですが・・。佐伯から : 取り付けのことだけで安易に書いてしまいましたが、書かずもがなのことでした。その部分を削除しました。
尾翼
横方向水平安定板
シンクロナイズド・エレベーター
縦方向垂直安定板
§32-3 FA300さんから指摘
「真後ろから見ると、わずかながら左右の角度が違います。両側の複雑な後流に対応するようにコンピューターが計算して動かしているものと思います。」は間違いです。
確かに設計段階では コンピューターもありますが 左右のエレベーターはトルクチューブ1本で繋がっています これに ホーンが付いてそれにロッドが1本繋がってテールブームの中を走ってサイクリックのリンクに繋がっています。これはOH-1も同じです。
佐伯から : 恐縮です。「真後ろから見ると、わずかながら右が下げ舵です固定されています。試験飛行中の調整によって、これが最適とされたものと思われ、興味深いです。」という記述に改めました。
§32-4 横川裕一さんから意見
素人ですが、少し、考えを述べさせてください。
「操縦桿を前に倒せば昇降舵の後縁があがり機首上げ、引くと機首下げで、メーンローターの回転面の動きと連動します。」
HU−1Nが水平安定板が逆キャンバーを持っているのは、縦の静安定をとるためだと考えられ、揚力(または推力)増加による機種下げモーメントを打ち消す(縦の静安定を正方向に)ためだと思われます。ヘリコプターは縦の静安定が「負(またはそれに近い)」なので、外乱または操縦桿を引いて機首をあげようとすると、それを打ち消す方向に作用させることが望ましいです。大抵の水平尾翼は、ある速度域でのみ効果を期待しているのだと思われます。単純な、操縦桿との同期(連動)では「シンクロナイズド」というのも大げさですし、操縦桿とは逆方向の作用も、その理由には低いように考えます。
手がかりには、宮田豊明氏の『ヘリコプター物語』があります。
その79ページに、「ベル204では操縦桿の動きと比例しないようにした」という一文があります。これが上記そのものを指しているのか、上記をやめたことを指しているのかは不明なのですが。
§32-5 横川裕一さんから意見
シンクロナイズド・エレベータに関して、ヘリ整備士の友人に質問してみました。その回答は、次のとおりです。
シンクロナイズド・エレベーターは、 サイクリック スティックに連動します。
動きはこうです。
操縦桿(サイクリックスティック)が中立位置において エレベーターはわずかにノーズダウンにあります。 この中立位置からスティックを前、後いずれに動かしても スタビライザーはノーズアップ方向に動くようです。 ただし作動量は前方操作と後方操作で異なります。
なぜこのような動作が必要かと申しますと、ヘリコプターは飛行機に比べて 上昇や、降下の際はもともとあまり機体姿勢が変化しません。 ところがこのスタビライザーがあるために上昇、降下の際にその空力作用を受けて 機体姿勢が変化してしまうようです。
このような機体の姿勢変化を修正するためにパイロットは操縦桿 (サイクリックスティック)を大きく操作する必要が生じますが、 この操作を最小限にするための「からくり」がシンクロナイズド・エレベーターの ようです。
ちなみに最も重要なのは、オートローテーションの場合にスタビライザーが悪影響を及ぼすことで、この対策がスタビライザーに逆キャンバーを付けることのようです。さらに上昇時のストール防止のためにスポイラー(UH−1B)や前縁スラット(Bell222,206L,AS332)を付けている機種があるようです。
このような解説に反論を唱えられる方もいらっしゃるかもしれませんが、文献(Rotor&Wing 別冊HELICOPTER AERODYNAMICS)から私が解釈した見解です。佐伯から : 横山説とやや違うように感じられます。またHU-1のスタビライザーはローターに直角に取り付けられているバーの名称ですが、この方のいうスタビライザーはシンクロナイズド・エレベーターないしは水平安定板のことだと思います。
§32-6 佐伯からHU-1系ヘリコプター操縦の理解について (03/05/18)
サイクリック ピッチ スティックに連動などとえらそうなことを書いていても、ヘリコプターの操縦を理解していないでは本末転倒です。とりあえず、諸先輩の教示に基づく佐伯流理解を披露しておきます。ヘリコプターの操縦
ヘリコプターの2本のスティックの名前にヒントがあります。
正面にあるサイクリック ピッチ スティック(CyS)は、サイクル(周期)つまりブレードのピッチ角を1回転の間に周期的に変えてやります。
左手側にあるコレクティブ ピッチ レバー(CoL)は、コレクティブ(総体的な)つまり全部のブレードのピッチ角を同時に同量変えてやります。
飛行中の写真で確認すると、ブレードの回転面を水平方向から見ると逆円錐形になっています。それはブレードの水平方向への遠心力と揚力の合力で各ブレードの先端が斜め上を指しているからです。
真上に上がる時は、CoLで、各ブレードの揚力が最大になるピッチ角にしてやります。前進の時は、CySで、ブレードが前に来た時に揚力が減るように、そのブレードのピッチ角を変えてやります。
各スティックの動きがどのようにしてブレードに伝わるかというと、マスト(プロペラシャフトに相当)にスワッシュプレートというのが2枚あって、スティックからの操作で、実にうまくブレードを操作しています。スワッシュは水がばしゃばしゃいう音と辞書にあるので、意味がわかりかねますが、マスト軸にふたつ円板が通してあって、ベアリングが接点になっています。下の円板にスティックから運動を伝えると、軸に対して自由に傾きます。それがベアリングを介して上の円板に伝わり、ブレードのピッチ角を変える仕組みです。
鉛筆に直径10cmくらいの円盤を差込み、円盤の端を持って斜めに動かすという動作を想像してください。CySにつながるスワッシュはスワイベルリンクと呼び、スワイべルとはちょうど回転木馬のように円盤を波打たせながら回していると考えればよいでしょう。その動きでブレードの後縁をある位置に来た時に下げたり上げたりしているわけです。
かなり誤解を招き易い解説ですが、あの複雑なローター操縦を文字で簡略に説明するのは、私にはこれが限界です。
原語
collective pitch lever
cyAHic pitch stick
swash plate
swivel link
§32-7 ローターピッチへの伝達機構について FA300さんから
ヘリの機構的な話
シンクロナイズ・・・を書く前に某メーカーのスワッシュプレート付近を見てみましょう!
上図は大まかな構造です。
スワッシュプレートBは、ローターの回転面を傾けるために、どの部分にピッチの強弱を付けるかサイクリックスティックを操る操縦士の意思を伝えるところ。
スワッシュプレートAはベアリングを介してスワッシュプレートBの情報を正直にトレースします。
ただ、このスワッシュプレートAは回転します。ローターを回すマストと一緒の回転をします。
その上にシザーズリングがあります。これはとても大切な役目をしています。シザーズスリーブというマストの外側にかぶっているチューブの上に特殊なベアリングを介して付いています。シザーズスリーブよりも上に伸びた部分がマストの回転に連動するのです。。
マスト側にはセレーションというピニオンギア状の山が軸方向に刻んであり、シザーズリング内側に刻まれた溝と噛み合うのですが、軸方向にスライドする様になっています。
シザーズスリーブはレバーBによりシザーズリングを上下させます。
レバーBの支点Dはケース(図では省略)に繋がり、スワッシュプレートABも2軸のピンでこのケースに繋がっています。
スワッシュプレートAは ごっついアームGを介してシザーズリングの回転、つまりマストの回転が伝えられています。
さて、操作は
サイクリックスティックを前に倒すと、スワッシュプレートBの前方側2本のロッドが引かれ前方側が下がります。
するとスワッシュプレートAも回転しながら一緒に前下がりで アームGが前方側に来ると下に引かれ後方に行くと上に押し上げられます。それがシザーズリングの支点Fに付いているリンクHを動かし マスト上部についているスタビライザー装置に伝わり そこを介して ローターブレードのピッチを変え続けます。
そこにコレクティブピッチレバーを引き上げるとレバーBを持ち上げます。つまりシザーズスリーブと一緒にシザーズリングを上に押し上げます。スタビライザー装置へ上がっているロッドは更に上に押し上げられる・・・
・ ・・へっ? 何か変?
これから先は ヘリに詳しい方に聞いて下さい。
さて、シンクロナイズ スイミング・・・?ではなく エレベーターの話に戻ります。
先程のスワッシュプレートリングBの後方に付いているロッドが図のように胴体からテールブーム 内を走りエレベーターのホーンに繋がっています。
途中に いくつかのベルクランクを経由するのですが、最後のベルクランクがちょっと曲者・・・パテントかも?
(エッセイ14の中程に写真がありましたね!・・あれがヒントです)
何故そうなっているのかワカリマセンので、此処では省略します。言える事は 「スワッシュプレートの前後の傾きに連動している」って言う事です。
ちなみに サイクリックもコレクティブピッチも油圧でアシストされてます。
ヘリも 奥深い・・・です
§32-8 川崎OH-1のスタビレータについて きすかさんから
はじめまして、マーおやじさんのBBSからリンクを辿ってやってきました。
シンクロナイズド・エレベータの記事、興味深く拝見させていただきました。
その中で §32-3 FA300さんからのシンクロナイズドエレベーターの指摘に、「左右のエレベーターはトルクチューブ1本で繋がっています これにホーンが付いてそれにロッドが1本繋がってテールブームの中を走ってサイクリックのリンクに繋がっています。これはOH-1も同じです。」
とありますが、公刊文献によりますと、OH-1に関しては違うようです。
まず、OH-1のは「スタビレータ」と呼んでいます。
試作機では、フライバイワイヤによって対気速度とコレクティブピッチレバー位置に応じて40度(ホバリング時)〜−20度(オートロ時)の範囲でフルオートで動いていました。
縦サイクリック位置とは直接は連動していませんし、メカニカルに結合されてはいませんでした。電気信号で油圧アクチュエータにより動かしていたんです。
ただし、縦サイクリック位置は、概ね対気速度と比例していますので、間接的には連動していると言ってもいいかも知れません。
これを可動とした目的は、つぎの2点です。
@ 速度によって適切なピッチ姿勢を作り出すため(ホバリング時に過大なピッチ上げにならないように、また高速飛行時にはほぼ水平姿勢になるようにする)
A いかなる速度域でも適切な縦安定性を持たせる(スティックを押せば機首が下がり増速する、引けば機首が上がり減速する特性を持たせる)ただし、平成9〜11年度に実施した飛行試験の結果、OH-1のスタビレータは固定としてもその飛行特性は満足すべきものであることがわかり、量産機からは固定とされました。
他機種としては、シコルスキーのUH/SH-60、ボーイングAH-64が、やはりフライバイワイヤで作動するスタビレータを採用しています。OH-1と同じように、約40〜−20度位の範囲で動きます。
また、メカニカルに結合されたエレベータならば、アグスタA109も採用しています。
ヘリコプターが水平安定板を動かすのは、OH-1が動かしていた目的で書いたように、
@ 速度によって適切なピッチ姿勢を作り出すため(ホバリング時に過大なピッチ上げにならないように、また高速飛行時にはほぼ水平姿勢になるようにする)
A いかなる適切な縦安定性を持たせる(スティックを押せば機首が下がり増速する、引けば機首が上がり減速する特性を持たせる)
ということで、この目的は機種によらず変わらないと思います。
ヘリコプターの尾翼は、メインローターのダウンウォッシュの複雑怪奇な流れ、胴体の後流の乱れた流れにさらされるため、事前の検討による設計がよくハズレる場所です。
そのため、飛行試験が始まってからしばしば改修され、形態が変わることが本当によくあります。
例えば上昇時、及び降下時などに特異な姿勢変化などが発生してしまう場合や、異常な振動・揺動が発生する場合などもあります。
このため、機種によって本当に様々な工夫をしています
・ スタビレータにスラットを付けたり(ピューマ)
・ 前縁にエッジを立てたり(ドーファン)
・ キャンバー付きの翼型にしたり
・ 後縁にガーニーフラップと呼ばれるついたてを立てたり(ドーファン、MD900その他)
・ 可動にしたり(ベル47、H-1、アグスタA109、AH-64、H-60)
・ 水平安定板の取付位置を動かしたり(H-53、AH-64、H-60、タイガー、コマンチetc)
その他も機種によって様々です。
なお、以下の文献を参考にしました。
Aiba, M., Kataoka, T., Tobinaga, Y., The Flight Control System of The 新 Observation Helicopter (XOH-1), Proceedings of AHS International Meeting on Advanced Rotorcraft Technology and Disaster Relief, Gifu, Japan, 1998. Aiba, M., Tsukiji, T., Kataoka, T., Fujigaki, T., The Flight Test Results of the 新 Observation Helicopter (XOH-1), Proceedings of 56th AHS Annual Forum, 1998.
片岡,饗庭,中川,菊池,飛永,永山,新小型観測ヘリコプター(XOH-1)の試作-飛行制御設計, 第36回飛行機シンポジウム講演集, 1998.
小野,才上,饗庭, XOH-1の設計及び試験-飛行試験(飛行特性), 第38回飛行機シンポ
ジウム講演集, 2000.
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