◎ 特集「航空機の型式証明」は、三菱MRJの型式証明が行われることを見越しての編集でありましたが、またもや試験飛行が遅れるとの発表があって、特集前半の航空局航空機安全課長による型式証明の詳しい解説が、どうもタイミングが悪かったなあという印象であります。
しかし、続く藤原さんの記事は、豊富な写真とともに、とても興味ある読み物になっています。
YS-11の開発過程や検査の実際は、既にいろいろなところで発表されていますが、技術職員として検査に当たった藤原さんの視点は、お堅い技術解説文でなく、航空歴史派マニア(マニアでは失礼ですか?)の素養の上にたっていますので、読みやすいし、伝えるべきポイントがすんなりと伝わってきます。
防除氷装置をめぐってFAAとの見解の相違で、当初のヒーターをブーツ式に変えたために翼形が損なわれてロスを招いたこと、イギリスから輸入した離着陸距離測定用カメラなどYS-11の型式証明のために新たに導入された機器のこと、試験機でお馴染みの長い特設ピトー管のこと等々‥、一般論は別にしてエピソード的な話しが面白いし、貴重な記録にもなっています。
MRJが型式証明手続きの段階に入る頃には、検査体制は殆んどデジタル化されて、YS-11或いはFA-200やMU-2時代とは大変な様変わりだとは思いますが、若い技術者はアナログ時代の先人の苦労を学んでおくべきだと思います。
◎ その他、本号で気付いたこと
・ 創立百年に当たる今年にあたり「航空協会の100年を振り返る」の連載も平成編として最終回の記述になっています。結びの「一般財団法人日本航空協会のこれから」というのにいろいろと書いてありますが、本来、自主財源に乏しく大手航空企業からの援助(資金と人材)で成り立っている組織ですから、このご時世では大変ですね。この機関誌でも、以前は第4表紙にあったJALの広告が姿を消しています。もし、ANAも手を引いたらなんて、考えますまい!
・ 佐伯もささやかながら賛助員として協力している航空遺産継承基金関連記事も、もちろん自画自賛してあり、確かに埋もれている貴重な航空遺産が発掘保存或いは公開されていることには敬意を表します。
・ 文化的価値の高いものを顕彰する重要航空遺産認定制度も自賛していますが、その前提となる実物の悉皆調査が掛け声倒れに終わっている現状では、大いなる偏りを感じざるをえません。当方で最近取り上げているベル47ヘリコプターが如何に航空普及に貢献しているかをみれば、輸入と国産の最初期の姿を残す全日空と所沢のベル47D-1などの価値が分らないはずがありません。
ほんの一例に過ぎません。悉皆調査をしなければ、隠れた重要遺産も見つからないでしょうに。
・ 「写真集それでも私は飛ぶ」と国立科学博物館での展覧会を2ページにわたって、これも自賛していますが、まさか当方の酷評(T68参照)への答えではないでしょうね。私の主張は、回顧趣味も悪くはないが、その前に先ずやるべきことがあるだろうといっているのです。Jレター(1945年までの日本機登録記号)の調査です。
航空再開初期のJAナンバーですら調査不明の部分があるのに、それ以前を頬かむりしたり、その泥沼を避けて通っている限りは、日本航空協会が100周年を謳歌するのは、航空歴史派マニアからすればマスターベーションに過ぎないと言っておきましょう。
・ 今号からスタイルが横書きになりました。図版や写真との兼ね合いで編集がぐっと楽になったはずです。読みやすくもなりました。小さなことですが、N-62の速度試験中の同じ写真が表紙、藤原さんの記事、編集後記に出ています。これは工夫が欠けましたね。