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発行 2022年03月01日 編集 湯沢 豊 発行所 株式会社文林堂
定価 1333円+税
目次 SSF構想とF2Y、P6Mの位置づけ 山内秀樹
F2Y構造とシステム 山内秀樹 P6Mの開発、構造とシステム 山内秀樹
マッハを目指した水上機 海老浩司 イラスト、図面 A.Nagai S.Ninomiya Y.Suzuki
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文林堂の宣伝文句を借用
これのどこが傑作機なんだ!? というご意見がすでに各方面で声高に叫ばれているという情報が小誌編集部にも届いているこんどのシーダートとシーマスター。 そうした声は両機とも本邦初の特集であるが故の注目度と期待度の高さの裏返しではないかと編集スタッフは勝手に解釈しております。
そんなシーダートは水上戦闘機で、シーマスターは爆撃や機雷敷設もこなすジェット飛行艇。 海面上を自由自在に発着し、しかも超音速。洋上の水上機母艦はもちろん、潜水艦からも燃料や多彩な兵装を供給可能という両機の構想は、1960年代後半から70年代にかけてテレビ放映され、当時のSF好きな少年少女たちを魅了した『サンダーバード』や『キャプテン・スカーレット』『原潜シービュー号』『謎の円盤UFO』といった特撮ドラマの香りがプンプン漂ってきます。 しかし、両機はこうしたドラマのネタにされるためだけの気まぐれで作られたものではなく、アメリカ海軍が1950年代前半から大マジメで取り組んだ「シープレーン・ストライキングフォース」(SSF)というコンセプトのもとで開発された機材でした。
本号ではこのSSF構想を踏まえつつ、時代の徒花として終わるも強烈な個性でいまも存在感を放ち続ける両機を徹底解説しています。
いまはオジサン、オバサンになってしまった当時の少年少女はもちろん、スマホ世代の若い読者の皆さんもぜひご購読くださいますようお願い申し上げます。
佐伯から紹介 図書室T96
SBDドーントレスの紹介と同じように宣伝文句を借用しました。本書に編集後記を置かない代わりに、湯沢氏がブログに書いたものと思いますが、山内氏がSSFに関して70冊に及ぶ書籍とTOを総当たりしてまとめた業績を重文級の城郭に例えるとすれば、傑作機ならざる機材を傑作機たらしめた湯沢氏は、文化功労者級の城づくり縄張りの天才とでも言うておきましょう。
世界の傑作機たる所以
全体を通じて、アメリカ海軍が大戦中から手掛けていた軍用航空機による海面の利活用の研究からSSF(Seaplane Striking
Force)というコンセプトを大マジメで取り組むに到った歴史が豊富な実例で説かれ、コンベア、マーチン両社と共に頑張った姿がよく分かります。そのSSFを泣く泣く放棄せざるを得なくなった原因と理由も、また、飛ばせぬ機体を5年間も除籍しなかった海軍の未練もなるほどとうなずけます。
水上機について、或る程度の知識を持っていたつもりでも、こんな大型機が母艦に滑り込んだり、潜水艦とホースでつながったりetc. へえー、こういう世界があったのかと別世界に連れ込まれた感覚で、まさに「世界の傑作機」として取り上げるにふさわしい大プロジェクトであったと、個人的には認識を新たにしました。
多少気になったことなど
その1
超音速戦闘機を目指したP2Yでしたが、思うような速度が出ずにいたところへ、F-102がエリアルールを採用したことで超音速になったことに倣って、エリアルール採用のP2Y-2の計画が進められたのですが、スキーに起因する振動問題の根本的な解決ができなかったこととSSFの打ち切りで夢に終わったとあります。この「スキーに起因する振動問題」とは70頁に海老氏のわずかな説明がありますが、不十分です。パイロットが計器盤を読めなくなるほどの振動が致命傷になったのなら、もっと詳しく解説してほしいなと、五輪のスキーモーグルで凸凹の山を巧妙に潜り抜けて滑って来るのを見ながら思ったものでした。
その2
P6Mの機雷倉扉の180度回転という仕組みが分からず、山内氏に問合わせました。B-57キャンベラに詳しい方はご存知らしいですが、念のため教えて貰ったP6M機雷倉の断面図と操作手順を示しておきます。
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塗りつぶした部分が機雷倉の扉で、180度回転して、機雷(又は核を含む爆弾)が下方にむき出しになり、投下していく仕組みです。後席の航法士(緊急時は操縦士も操作可能)がスイッチをOPENに入れると、油圧で機雷倉扉がアンロックされ、機雷倉扉の周囲の水密シーリングの高圧空気のチューブから空気が抜け、機雷倉扉が回転可能となり、航法士席と操縦席の機雷倉扉作動灯が点灯し、油圧で機雷倉扉が180°回転します。 投下後、機雷倉扉のスイッチをCLOSEに入れると、上記と逆のシーケンスで機雷倉扉が閉じ、水密シーリングが施され、ロックされて、着水が可能となります。
離水時には機雷倉扉のシーリング付近は海水で濡れており、そのまま高高度飛行をすると機雷倉扉シーリングが氷結するので、機雷倉扉シールヒータースイッチをAUTO
ONに入れておくと、周辺気温が10℃を割ると自動的にヒーターが作動してシールを温め、イザという時に開閉できる状態を保って目標に向かいます。
(限られたページ数に収めるために、こうした解説を多く省略せざるを得なかった筆者の心情をお察しするし、疑問の点は文林堂編集部を通じて質問すれば、山内氏が明解に答えてくれることを付記しておきます。)
その3
33頁のシーダートの開発記事で、YF2Y-1の2号機135762が「高速デモフライト中に空中分解して墜落」とありますので、航空情報誌を当ったら1955年1月号に次のニュースが載っていました。.「すべては大きな弧を描いて一瞬の間にサンディエゴ湾深く没した」とシーダート短命を暗示するような表現が印象的です。
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45頁のシーマスターの開発記事で、KPM-1の1号機がチェサピーク湾に墜落とあります。航空情報1956年1月号によると、マーチン社の創始者で社長のGlenn
Luter
Martin氏が12月4日に亡くなっています。 その3日後の事故ということで、これもシーマスターの不遇な運命を象徴しているような気がします。
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終わりに
湯沢氏ががオジサン、オバサンに呼びかけているロマン=いざSSFからサンダーバードや宇宙戦艦ヤマトの世界へ飛び出そう! 米海軍航空専科の山内研究員とともに!!
・ 訂正箇所
6〜9頁及び12頁の図 機体表面をシープレーングレーに塗ってあるが、シーブルーが正解
12頁 2行目 シーグレ― → シーブルー 同 4行目 以降の試作機 → YP6M-1
15頁 「塗装が」の次に「垂直尾翼、艇体上部、主・尾翼上面をシープレーングレーン」を挿入
24頁 中段下から13行目 「ネムロン島」 → 「モネロン島」 25頁 中段上から9行目 「塗装、すると」 → 「塗装すると」
27頁 表のAOSS欄の電子装備欄は独立で空白に 33頁 中段上から2行目 「全すべ」 → 「すべて」
41頁 上段説明 「フラップとエルロンを兼ねるフラッペロン」 → 「エレヴェーターとエルロンを兼ねるエレヴォン」
57頁 中段説明 「XP6M1 1号機」 → 「YP6M-1」 62頁 上段説明 「運搬車」 → 「ビーチングギア」
64頁 上段説明 「外洋」 → 「シードローム」 「飛行艇母艦」 → 「水上機母艦」
67頁 左段 上から9行目 「JRF5」 → 「JRF-5」
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