HOME  SITEMAP 日替わりメモ ヒコーキマニア人生録目次

図書室 掲載20/12/19

紹介 世界の傑作機SBDドーントレス

山内秀樹・佐伯邦昭

 

 

発行 2021年1月5日
編集 湯沢  豊
発行所 株式会社文林堂
定価 1333円+税
誕生から終焉まで 野中寿雄
各型写真解説 野中寿雄
急降下爆撃機の技術的難題 鳥養鶴雄
ドーントレスの戦い 岡部いさく
Dauntless in Action 黒木一実
ドーントレスの構造とシステム 山内秀樹
塗装図 二宮茂樹  作図 鈴木幸雄 

文林堂の宣伝文句を借用 (一部変更)

 表紙絵は「加賀」めがけて500lb徹甲爆弾を投下するシーンを再現した迫力のイラスト、このイラストのように、ドーントレスといえばミッドウェー海戦でしょうか。いまさら説明不要なほどの有名な大海戦ですが、本号ではドーントレスの動きに焦点を絞ってその戦闘を仔細に描写。さらに大戦全般にわたった同機の運用を克明に追うとともに、日本機の設計思想にはないようなユニークなギミックを備えた機体構造とシステムの解説は唸るような記述でいっぱいです。
  ドーントレスはNo.40でSB2Cとの抱き合わせでいちど特集しましたが、それからすでに四半世紀以上の歳月が経過したこともあり、今回、単独扱いにしてより内容を充実させての再登場と相成りました。空前絶後、本邦随一のドーントレス最新解説書である本号をぜひお手にとってご覧くださいますようお願いいたします。


佐伯から紹介 一読してこの宣伝文句に偽りなし、個人的には、最近出版される航空書籍の中では出色の内容と思います。ドーントレス出現の時代背景から運用と設計の思想、改造点、急降下爆撃の実際まで豊富な写真図面と共ににまとめられています。
  中でも特筆すべきは、山内秀樹さんの「ドーントレスの構造とシステム」です。読み進むうちにまるで自分で機体を操っているような錯覚に陥ります。例によって彼が集めている豊富な公式資料を細かく分析した上での考察(Z72参照)は、多分、世界で初めてのSBDの詳細なシステム解説だと思います。空母艦内では天井と床面で二重に格納していたなんて鳥養鶴雄さんだって驚いていますもの。それらのことを山内さんの執筆後記と実際の本で確認してください。


 山内秀樹 執筆後記
  私の研究の守備範囲(WWII戦後の米海軍・海兵隊機)から少し外れるのでうまく執筆できるか心配でしたが、周辺資料として従来から収集していたもの、故賀張弘道氏と故藤田勝啓氏から相続した研究遺産、その他最近ダウンロードしたデジタル資料等を掻き集めて何とか「構造とシステム」と各種のデータ表(これに時間が掛かる!)をまとめました。

 ・ 戦記物を読む時の基礎知識に
  エンジンの始動方法や当時の油圧装置など、最近の飛行機しか知らない読者には逆に新らしい知識の記事が書けたのではないかと自負しております。殊にレバー1本の操作で完結する今日の油圧装置と異なり、2本のレバーを操作してまず油圧の経路を確立し、次いで油圧を掛けてようやく作動するという二段構えのシステムは戦記物を読む場合、念頭に置いておくべきことと考えます。

 ・ 搭乗員の日米の差
  日本海軍では偵察員の地位が高く、航法計算を全て後席で実施したのに対し、SBDでは単機ではるばる洋上偵察するのに、パイロットに航法と操縦が集中し、プロッティングボードを引き出して航法計算中は副操縦装置を後席に取り付けて銃手の水兵さんに任せ、SBD-2以降はオートパイロットを搭載しなければならなかった、またZB/YE電波航法支援装置(元祖TACAN・・・DME機能はありませんが)でこれを支援しなければならなかった、という日米の差異がおもしろいと思いました。

 ・ 爆弾の日米の差
  99式艦上爆撃機が250kgの99式通常爆弾しか搭載できなかったのに対し、SBDは当初(SBD-1)から1,600lb(726kg)徹甲爆弾を搭載可能だったのはp.77に書いた通り、米海軍が当初から空母機動部隊同士の洋上遭遇戦を想定していたからだと考えます。さすがに1,600lb爆弾を搭載すると、離艦時から燃料を削減する必要はあったし、ヨタヨタと飛んでいたようですが・・・。[p.78の爆弾の図で上から3番目のAN-M58A-1爆弾を誤植(図版作成時の入力ミス)で一番上のAN-M65A1と説明されてしまったのは残念!]

・ レーダー旧説の誤り
  ASBレーダについても、従来の出版物に詳しく説明されておらず、本誌でもP.22に「操縦席に取り付けられたスコープ上に」と誤って記載されておりますが、実際はASBの操作は後席の銃手が実施し、パイロットに目標位置を指示していたことをp.75〜76に述べておきました。(後にAN/APS-4を装備した機体は操縦席にもリピータがあった可能性はあります)

 ・ 急降下時の過酷な作業
  p.67に書いた通りSBD-1〜SBD-6の操縦席にも銃手席にもショルダーハーネスが無く、p.69〜70に書いた通り急降下爆撃時のパイロットの複雑な操作手順を胴回りのシートベルトとラダーペダルに体重を預けてよくやったものだと、改めて感心しました。パイロットはスキージャンプの選手か、プールに飛び込む水泳選手のような感覚で、約30秒を背筋で上半身を支えていたわけですから・・・。(それにしても、急降下の最中に操縦桿を右手、左手、また右手と何度も持ち代える必要があったのは原始的と言うか、HOTASが当然の今日的観点から見ると、大変な作業で・・・)

 ・ 急降下時のプロペラピッチ
  p.41に、岡部さんが急降下の手順で「プロペラのピッチを「低」にする」と誤って書かれておりますが、私はp.69〜70に「高」と書いています。「高」にしないとプロペラ即ちエンジンが過回転するので・・・。
  ところが、或る方から「岡部さんのプロペラピッチ角についてですが、ワタシもこの点が気になりました。ただ、急降下時にピッチを浅くすると風車ブレーキ効果というものが働き機速を抑えられるそうです。木村秀政教授もそのようなことを書いておられます。 岡部さんは洋書をたくさん買い込んでパイロットの手記を参照しながら記述されているので、パイロットがそのように書いていたのだと思いますが、山内さんがお持ちのフライトマニュアルにはどのように書かれているのでしょう。ちなみにV-22オスプレイは固定翼モードから回転翼モードに変換する際、ピッチ角を浅くしてエアブレーキとして作用させるそうです。」
  また、他の方からは「急降下時のプロペラピッチの件ですが、プロペラを低ピッチにするとスピード・ブレーキとして大きな効果があります。(リバースの無いYS-11が着陸後0ピッチにするだけであれだけの減速効果がある様に・・・)過回転制御さえ出来れば低ピッチも有かなと思います。」等の指摘がありました。
  それに対する私の反論:
  「急降下時にプロペラを低ピッチとしブレーキとする理論は、昭和9年(1934年)に木村秀政先生が論文に書かれておられますが、その後の日・独・英・米いずれの急降下爆撃機を見回してもその理論を取り入れた機体は見当たりません。
  プロペラピッチをリバースではなくても、ピッチ角を低くして円盤抵抗として使用するのは古くはヴィッカース・ヴァイカウントやフォッカー・フレンドシップ旅客機が近所の伊丹空港で日常的に行っていましたし(あの音が懐かしい!)、その後、同じダートエンジンを装備したYS-11も同様に運用しておりました。そして今、US-2も着水・着陸時にそのような使用法をしています。確かに円盤抵抗は着陸速度以下の低速域では実用化されておりますが、水平最大速度より(ダイブフラップを開いていても)高速度になる急降下時に低ピッチを用いるのは、条件が異なり、下手をするとPROPELLER RUN-AWAY(プロペラの過回転・暴走)状況に陥るため、実用化されなかったのだと考えます。
  p.69〜70に書きました通り、手許にあるSBD各型のフライトマニュアルの急降下の手順には高ピッチでプロペラ回転数、即ちエンジン回転数を制御するよう指示されています。(1945年に初飛行し、ベトナム戦争1970年代まで使用されたダグラスAD/A-1スカイレイダーも急降下の手順としてプロペラを高ピッチにセットしてエンジン回転数を3,120rpm以下に保つよう指示されています。)
  P.24〜25に掲載しましたSBD各型諸元の表中にもあります通り、SBD-1〜3は可変ピッチ角19〜39°、SBD-4〜6は18.5〜48.5°であり、搭載エンジンの急降下時の最大回転数(許容回転数)がSBD-4までは2,900rpm、SBD-5が3,000rpm、SBD-6が3,100rpm(30秒制限)で、クランク軸とプロペラシャフトの減速比が16:11あるいは3:2で、エンジン破綻防止には、どうしても高ピッチで回転数を制御する必要があったようです。
  飛行中にプロペラをスピードブレーキ的に使用する実例はV-22を除いて見たことがありません。むしろ、多くのフライトマニュアルにはPROPELLER RUN-AWAY時の、つまりプロペラピッチが制御できなくなって回転数が上がった場合のEMERGENCY PROCEDUREが書かれています。エンジンの過回転でエンジンがお釈迦になっても多発機は何とか帰投できますが、プロペラの過回転により遠心力でプロペラブレードが飛散し、胴体を貫通・切断する可能性があり、適切に処置(故障プロペラ/エンジンの過回転速度以下で、なおかつVse=片発停止時飛行可能速度以上の速度を維持)しないと大事故につながります。(たしか、昔太平洋を横断飛行中のPAN AMのボーイング・ストラトクルーザーが、プロペラ過回転・脱落で胴体を損傷し、不時着水したことがあったと思います。多発機のプロペラ回転面の胴体部分には座席を配置せず、重要な機材もこの場所には配置しません。)

 ・ 急降下時の頭上げの抑止
  鳥養先生の「斜め急降下と垂直降下」に関して、p.22にまとめたSBD-1〜SBD-6寸度の表やp.86にある鈴木先生の図にある通り、水平尾翼の取り付け角度が2°あり、上下ダイブフラップの開度の差と相まって、急降下時に機首上げモーメントを抑制するのに効いたのかな、と考えておりましたところ、鳥養先生から次のご意見を頂きました。
  「SBDの水平尾翼の取り付け角は+2°ですが、主翼は+2.5°です。従って水平尾翼の取り付け角は主翼に対して-0.5°となります。主翼の翼型がNACAの4字系列なので、0揚力角が-2°になるので、静の縦安定の要件は満たしていることになります。急降下時のダイブブレーキ開度を上下非対称 とするなど、頭上げの傾向を抑える努力はされているが、急降下時(0揚力時)にはやはり、昇降舵のトリムタブを利用した押さえ、正の静安定の対応は必要になります。」
  更に、「執筆中尋ねたいことが、いくつもあったのですが、そちらも執筆でテンヤ・ワンヤに違いない!あまりたびたびでは・・・と、躊躇したことが、山内さんの記事で・・・やっぱりそうだよナ!ということが幾つかありました。記事中に「山内さんの記事参照」としておけばヨカッタと思うことが幾つもあります。一例が、主翼の翼幅と空母のリフト、英国に学んでリフトの幅40ftにした?「斜めにすれば載るだろう!」と押し切ったのだろうとは思いましたが!確証が無い!山内さんの記事にハッキリ書かれてあった。 しかし、天井走行クレーンで吊り下げ格納していたとは! その辺のことは、”映画ヘルダイバー”には出てこない!ショルダー・ハーネスが無い!も、・・・。」とのご講評を頂き、同一企画で執筆分担の場合、執筆者間で連絡を密にとり、「気づき」を交換しあい、執筆内容の向上に努力すべきと反省しています。

 ・ 黒木一実さん担当の写真解説の誤り
 ▼ P.56下 SBD-5 → SBD-4 (SBD-4とSBD-5は外形上非常に似てはいるが、照準器の形態で識別できる)
 ▼ P.58 VS-64(第64対潜哨戒飛行隊) → VS-64(第64偵察飛行隊)(当時VSはAnti-submarine Squadron ではなくてScouting Squadron)
 ▼ P.59 主翼下には2発の340lb対潜爆弾を→主翼下には1発の340lb対潜爆弾を (どう見てもこれは1発でしょう)
 ▼ P.60上 AN/APS-4レーダーポッド(?)→58Gal増槽 (p.31のSBD-5のように大戦末期AN/APS-4を右翼下面に搭載した機体もあったが、左翼にはそのための配線はない。 レーダーポッドか増槽か見比べればすぐわかる!)
 ▼ P.62上 SBD-5 → SBD-4 とミス連発。モデルマニアにご迷惑を掛けるので要反省ですね。

 ・ 元海上自衛隊員からも感想を頂戴しました。
 △ 米海軍の急降下爆撃機は、後席が偵察員でなく通信員/銃手で、操縦員が操縦と航法を行っていたことを初めて知りました。
 △ 前回のSBDは何となく内容が薄く感じていたので、今回分は実に興味深く読めました。山内様が書かれていた降爆時の操縦桿の持ち替え、実に興味深い内容でした。こんなに面倒くさいことをしていて爆弾が当たるのかい! と思うような複雑な操作をしていたのですね。一番に思ったのは操縦桿を持ち替えて機体のコントロールが確実に出来たのだろうかということです。
  また、ショルダーハーネスがなかったことにもびっくりしました。よくもまあ堪えられたものだと思います。これについても坂井三郎氏の「大空のサムライ」の中に硫黄島での空戦時、右目の視力が落ちていたため右後方の見張りがうまくいかないので、肩バンドを外して右後方を振り返っていたという記述を思い出し、+Gであればハーネスなしでも耐えられるかなとも思いました。


再び佐伯から
 1 山内さんの記事は12ページに及びますが、文章の切詰めに努力している形跡が見てとれます。つまり、可能な限り情報を盛り込んでおきたいと。編集部の湯沢さんは、経費との兼ね合いで縮めて貰うのに苦労したのかも。勝手な想像です。
 2 ラストページのSBD-5カッタウエイという断面図に各箇所の説明が付けられていたら、山内記事との照合で大助かりだったのですが、これは大判で折込図にしないと無理か。
 3 鳥養さんの「技術的難題」なる記事は、《考察ノート》とあるように、技術論が随想(エッセイ風)レベルで語られています。それを得意とした木村秀政さんや佐貫亦男さんらの晩年に似てきましたね。なお、その中の「図2 ドーントレスの急降下爆撃の基本パターン」は、日本海軍で9年間艦爆を操縦した高橋 定さんが「九九艦爆の急降下爆撃法(1982年刊丸メカ34、p.58〜61)」に同じパターンの図で九九艦爆の場合を詳述しており、併せて読むと興味深いです。
 4 世界の傑作機は今回で198冊となりました。そのうち、ヒコーキ雲で取り上げたのが7冊です。掘り下げに定評あるシリーズですから、他の世傑も多くの人による紹介や批評を期待したいです。

 

 

T09 世界の傑作機 F-104スターファイター ELINT
T09 ロッキードF-104J/DJ 栄光 佐伯邦昭
T76 グラマンF9Fパンサー/クーガー 佐伯邦昭、山内秀樹
T81 ロッキードU-2ドラゴンレディ 山内秀樹
T81 ミコヤンMiG-25MiG-31 山内秀樹
T83 ダグラスA-1スカイレイダー 山内秀樹
今回 SBDドーントレス 山内秀樹