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航空人生録・論文 掲載23/07/01
更新

    



 「ある少年飛行兵の想い」

 丹羽 八十

  今年も近づいて来る8月15日の終戦記念日。その終戦当日現役の操縦士で、ご存命の古老との出会いを紹介します。

 それは今年春までNHK TVで放送されていた「舞いあがれ」という朝ドラが繋いだ縁だった。毎朝楽しみに番組を見続けていた95歳になるKT翁はドラマの女主人公が教官から指導を受けて懸命に操縦技量を習得する姿が、過ぎし日の自己の姿とダブってきている記憶と結びついた。
 当時の素直な気持ちとドラマ主人公への励ましも込め、一文にしたため地元新聞社の「読者欄」へ投稿した。新聞記者は採用するにあたり、KT翁へ架電取材し、彼が主人公と同年代の頃に「空へのあこがれ」を実現させるため、「陸軍飛行学校」へ入隊、飛行兵の夢を叶え、やがては「特攻隊員」にまで成り、終戦を迎えた事を聞き出し、記事として掲載された。

 KT翁が居住する豊田市は2024年春「とよはく」と名付けた市立博物館を建設中であり、その掲示内容の一環として「市民の生き抜いてこられた記憶」を集める活動中であった。その矢先の新聞記事に目を止めた担当者がKT翁と接触したのはごく自然の流れだった。 他方、ボランティアでの「歴史マイスター登録制度」を設けている市としてはその筋に明るい市民の中から自分をKT翁への聞取り役に指名してきた。 かつて挙母町と呼称していた時代に町有飛行機「挙母号(Avro 504K, J-BECG)」の存在を掘り起こし、企画展開催までこぎつけた実績をかわれての事だった。

 KT翁宅へ市職員に同行し、お聞きした「少年飛行兵から特攻隊員まで」と「戦後から現在まで」について貴重なお話を伺う事が出来た。 第一印象は操縦士特有の裸眼で鋭い眼光と記憶力の鮮明さに驚かされた。
 19歳で陸軍太刀洗分校隅庄(くまのしょう)飛行学校へ入校し、95式1型練習機で飛行訓練の後、仏領印度支那バーカム基地で終戦を20歳で迎えるまでの様々な作戦飛行体験についても詳述された。
 終戦、帰国後に外語大を卒業され、埼玉県入間の米空軍ジョンソン基地に勤務された事を聞かされた時は大変驚いた。 その後は紆余曲折あり、住み慣れた関東を離れ子息が構えた新居、豊田市へ転居し今日に至る事を述べられた。 
 中でも最初の乗機となった通称「陸軍の赤トンボ、95式1型練習機」がことのほか懐かしく、TVの朝ドラとダブって思い起こされた様子だった。
 赤トンボの完成機模型が入手できず、手元に置いて往時を偲ぶことができない悔しさを口にされた。
 それを聴き一肌脱ぐ決意を新たにし、昔取った杵柄とばかりに「ソリッドモデル」工作で一役買う事とした。形状を認識するには自分で作図するのが一番とかつて師匠から教わった通り、雑誌航空情報の松葉 稔著「精密図面を読む7」を元図にし、1/48サイズで作図をした。それをKT翁に見てもらい、指摘を受け昔ながらの朴ノ木を木取して削りだしたのが今年3月末、プラモデルと違い形状を削りだしていく面白さが蘇ってきて楽しい時間が過ごせた。 操縦席内の工作や彩色はインターネットで容易に情報が集められる現代はまた別の意味でも楽しい時間が持てた。

 無事塗装も終え、曲りなりに完成させることが出来るまでに3か月を要したが、出来上がりを撮影し、KT翁に届けた。 大変喜ばれ、「訓練機は上位者が使用した中古機が多く、故障が絶えなかった事」や「ソロ飛行時には張線に赤い吹き流しを付けて飛んだ事」等が思い起こされ、記憶の蘇りを懐かしがられていた。
  「立川ホールディングス(株)」が90周年事業として米国で7/8サイズの実機復元を目指し、やがては国内での披露飛行も夢ではない事や、「そらはく」開館時には語っていただいた記憶と共に、今回作成模型も展示するつもりであることを伝え、今しばらくの健康維持をおねがいした。

  終戦時に生き永らえる事が出来た軍民の操縦経験者は数知れず。飛ぶことにあこがれて掴んだ技量が発揮できないまま、7年もの間どの様にして食いつないで来たかを詳細に調べ上げた記録が残っている。 (株)日刊航空社の駿河 昭 著ノンフィクション戦後民間航空史「大空の証言 I 終戦」「大空の証言 II再開」「自由の空(続・大空の証言)」がそれである。

 駿河さんは航空再開から40年を節目として日本中を取材し、戦前、戦中から生き残っていた操縦者らを探し当て、どう戦後を生き抜かれたかを多くの事例でまとめあげられている。 すでに絶版となっていたが駿河さんから寄贈を受け、読み進めたが戦後日本の航空史として非常に価値ある書だと思う。 古本屋や図書館等で見つけ一読されることをお勧めする。

 2023.7.1.
豊田市歴史マイスター、丹羽八十


 戦後78年の日々が過ぎ 戦時中に前線に赴かれた方々も高齢化でとても少なくなり 参戦された方の生の声を聞くことができるのは貴重なことと思います。市立博物館が完成しKT翁が見学できることを願います。(編)

編集掲載日 : 2023年07月01日
WEB編集  :  イガテック  

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