星山一男著 報道の翼より
朝日新聞社は、1200万円の研究費と改造費をかけてプロペラ前方の左側胴体に小窓を作り、これをはずして写真撮影できるようにしました。プロペラが邪魔にならず、ジェット噴流の影響を避けるためで、費用が高くついたのは、高空で小窓を開いた時の機体内外の圧力差対策のためでした。
冨田順也さんの解説
カメラレンズの性能を活かした写真を撮りたいとの写真部の要請で、改造したもので、加圧機では初めてのことなので、1200万円ほど開発費にかかっています。
余談ですが、MU-2の後継機として導入したセスナ・サイテーションでも同様に開閉式の写真窓(上下にスライド)を設けています。セスナ社に窓の設置を依頼したら、窓を開けて写真を撮るとはクレージーだと言われました。現在使用されているセスナ・サイテーションX機は写真窓は開閉式ではなく光学ガラスを使用しています。
以下 撮影三菱重工業 提供朝日新聞社 解説冨田順也
小窓がプロペラ危険線より前方に設けられていることが分かります。
機内から見た写真窓でクローズの状態
窓を開けるときは、キャビンプレッシャーを抜いて外気圧と同圧にしてから、上の把手を時計方向に、下の把手は反時計方向に回してロックを外
し、窓を手前に引き、ガイドレールに沿って後ろ側にスライドさせて開きます。これらの作業は、同乗の整備士が行います。
機内から見た写真窓でオープン時の状態
上記と反対の手順で窓を閉め、再度キャビンプレッシャーをかけ通常に戻します。
8千メートルの高空でガラス窓を通さずに写真を撮りたいというカメラマンの要求に、三菱は頭を抱えたことでしょう。研究の結果、与圧を切って外気圧と同じにして窓を開け
、写したらすぐに標準与圧の2千4百メートルあたりまで降下すれば人体への影響も少なくて済むという結論になったようです。
すごいですね。搭乗者は寒さと希薄な空気に耐えながら持ち場をこなしたのでしょうか。後継機のサイテーションを同じ装置にするように要求したら、セスナ社の技師がクレージーだと言ったそうですが、その気持ちよく分かりますね。
実は、小窓を設けた位置が不明だったのですが、左側の前方窓のガラスの代わりに、小窓を設けたパネルをはめ込んだということが判明しました。
非常に残念なのは、万世橋の交通博物館に本機を展示するに当たって小窓の前の部分から機体を切断してしまい、この画期的な改造物が残っていないことです。MU-2と朝日の宣伝にはなりますが、本機自体の価値が相当に減少したとしか言いようがありません。テツヤさんにとっては興味がなかったのでしょう。
かくいう佐伯も、横浜市の新聞博物館のサイテーションが機内公開であったにも拘らず、小窓の存在など気付きもしなかったのですから同罪であります。(たくさん写している人はチェックしてみてください)
よって、MU-2の小窓構造の情報は、昔の科学朝日などに掲載されているかもしれませんが、ネットでは世界初となりました。ご協力頂いた元朝日新聞社の富田順也さん、航空科学博物館ボランティアのにばさん、同専任学芸員の種山さんに御礼を申し上げます。