○ ムク材ではありません 積層材の圧接です イガテックさんから
昨日の疑問 ――― 断面写真はムクのように見えますが、横から見ると明らかに積層合板です。
昭和5年の霞ヶ浦海軍航空隊 飛行機製造要領書によるとプロペラ製造時の規格は次のとおりです。
プロペラ用木材の湿度(含水率)標準 12%から14%
プロペラ構成材の膠着條溝の幅1mm深さ0.5mm
膠着加圧時間24時間以 上
接着剤はカゼインを使用。防腐剤フォルマリンを使用することもあり。
加圧は材料に合わせて10から30kg/cm2の範囲内で行う。
除圧後 乾燥は通風の良い乾燥した室内で1週間以上放置後加工すること。
恐らく、大正期といえども木製プロペラは積層材であり、強度が確保できず反りなどの欠陥がある単板の使用は無かったと思います。なお、この写真のように合板の継ぎ目が現われてくるのは、乾燥によるもので、湿度が低い資料室の保管プロペラなどによく見られます。
佐伯から : ありがとうございました。早朝半眠でも、注意力を高めていれば、断面写真を持ち出してくることも無かったですな。
恥のかきついでに1955年にノースロップ工科大学が編集したAIRCRAFT
MAINTENANCE AND REPAIR(邦訳、1963年航空機の整備と修理法)から、航空機の木部接着剤について抜き出しておきます。昭和5年の日本海軍の仕様と較べてみてください。
カゼイン接着剤とは : 牛乳や大豆等のたんぱく質にホルムアルデヒト(注)を作用させて作るカゼインに、石灰及びソーダ塩を加えたもので、航空機用には更に防腐剤やかびを防ぐための添加剤が入っている。
接着の方法 : 強く加圧する硬質材の接着の場合には、カゼイン接着剤1に対し水を1.75の割合で混合する。水は温度16℃〜21℃で飲用水を使用しても構わない。粘い糊状になるまで攪拌し、約20分間放置し、落ち着いたら3〜5分間ゆっくりとかき混ぜる。
硬質材を接着する場合は、150〜200p.s.iで加圧する。加圧の時間は、普通の条件下で少なくとも7時間、できれば1日又は2日位は加圧したまま保つ方がよい。
そして、まるで「子ども向け模型工作」本に出てくるような懇切丁寧な図解があります。恐れ入りますね。
* ノースロップ工科大学とは、SBDドーントレスやT-38タロンなどで有名なノースロップ社が設けていた大学で、日本の航空再開後に官民の技術者が整備技術研修で渡米すると、必ずこの大学に入れられて板金から溶接にいたるまで理論と実際を学び、優秀な成績で整備士免許を取得し帰国していたそうです。いわば、戦後の空白を経てわが国の航空機整備の基礎固めが行われたのでした。
本書は、ノースロップ工科大学で使われていた教科書でした。原書は1955年、日本語版は8年後の1963年日本航空整備協会により発行されました。
日本語版の序で、航空幕僚監部技術部長の永盛義夫空将は「本書を基本にして、先進の諸国に追いつき、さらに追い越す時代が一日も早く到来することを祈る」と記しています。
その祈りが短年月のうちに現実のものとなったことはご承知のとおりです。本書を完全消化して整備技術をより高めた先人たちに感謝するものです。
(注) ホルムアルデヒトは、近年シック症候群などを引き起こすために、使用が厳しく制限されています。接着剤も合成系の普及により、カゼインそのものが無くなりつつあるのではないでしょうか。