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A5527-1 大阪府貝塚市 某氏宅
      Kaizuka
City, Osaka Prefecture
     
◎ イスパノスイザ300馬力エンジンのプロペラ 

訂正
 当初は、海軍三菱一〇式艦上戦闘機のプロペラとしていましたが、陸軍機の甲式四型戦闘機の可能性が高いという下記指摘を頂きましたので訂正します。(2015/04/14 編集者)

 

貝塚市某氏宅所蔵 撮影2015/03/18 碇 紀夫

1923(大正12)年7月製作の表示



シャフト部は銅板の容器をはめ込んで花入れとして利用されていた





ブレード切断面 

 2015/04/14  

 甲式四型戦闘機のプロペラではないか 渡邊諒一さんから

 上記「イ式300馬力用プロペラ」を海軍の一〇式艦上戦闘機用としていますが、私はその可能性は無いと考えております。
 なぜならば、
@ 「イ式」という表現は陸軍が使っており、海軍では「ヒ式」という表現を使っております。
A 仮に海軍機だったとしても、ヒ式300馬力の発動機を使用したのは一〇式艦上戦闘機以外にも一〇式艦上偵察機(制式採用:大正13年11月)、一五式水上偵察機、一五式艦上偵察機 が有ります。
B ウィキペディアによると、一〇式艦上戦闘機の制式採用は大正12年11月となっておりますので、上記の中では、一番確率は高いですが、大正12年7月製のプロペラが同機に使われたかどうかは、確定できません。
 当然、制式採用時には幾つかの部品が事前に生産されていましたが、その数は極僅かだったはずです。(不採用になれば、全てゴミになってしまいますから)
C 陸軍にて「イ式300馬力発動機」を搭載していたのは、
    アンリオ HD15 、
    ニューポール29C−1, 33E2、
    丙式二型戦闘機、
    甲式四型戦闘機
 が該当します。この中で、甲式四型戦闘機以外は数機のみの輸入機ですので、除外して良いでしょう。
 甲式四型戦闘機は、大正12年12月からのライセンス生産ですが、7月10日付の戦闘機制定に関する陸軍航空部の書類(実機写真付き)が残されています。あくまでも私個人の私見ですが、このプロペラは甲式四型戦闘機の物と想像します。

 

参考 陸軍甲式四型(ニューポール ドラージュ 29C1)単座戦闘機 

 昭和15年海と山社刊 写真日本軍用機史から

 

解析

日替わりメモ 4月2日

○ 初めて航空母艦に着艦した三菱一〇式2号艦上戦闘機 イ式300馬力プロペラ 

  鳳翔の飛行甲板に縦に張られたワイヤーロープの間に着艦する一〇式艦上戦闘機の写真は有名ですが、このたび大阪貝塚市のあるお宅で花瓶として利用されていたイ式300馬力のプロペラボス部が見つかったのを機会に、ヒコーキ雲にも登場させて貰いました。

 一〇式艦戦は、滑油冷却器の位置の違いで1号(エンジン前)と2号(ルンブラン式吊下げ)がありますが、製造大正12年7月からして1号のエンジンに取り付けられ、後に民間払下になったものと推察します。

 このお宅では、花瓶として置物にするためにブレードを切って短くしてあります。それで文化財価値は失われましたが、我々には断面が観察できるという効果がうまれました。

 そして、木製プロペラは、積層材を接着して作るものと常識で思っていましたが、写真をみるとムクの木材を削りだしたような?? 大正末期のプロペラは、軍用機といえどもまだムク材だったのか?? ご教示ください。
        

     

 

○ ムク材ではありません 積層材の圧接です   イガテックさんから

 昨日の疑問 ――― 断面写真はムクのように見えますが、横から見ると明らかに積層合板です。

 昭和5年の霞ヶ浦海軍航空隊 飛行機製造要領書によるとプロペラ製造時の規格は次のとおりです。
  プロペラ用木材の湿度(含水率)標準 12%から14%
  
プロペラ構成材の膠着條溝の幅1mm深さ0.5mm
 
 膠着加圧時間24時間以 上
  接着剤はカゼインを使用。防腐剤フォルマリンを使用することもあり。
  加圧は材料に合わせて10から30kg/cm2の範囲内で行う。
  除圧後 乾燥は通風の良い乾燥した室内で1週間以上放置後加工すること。

 恐らく、大正期といえども木製プロペラは積層材であり、強度が確保できず反りなどの欠陥がある単板の使用は無かったと思います。なお、この写真のように合板の継ぎ目が現われてくるのは、乾燥によるもので、湿度が低い資料室の保管プロペラなどによく見られます。 

 

佐伯から : ありがとうございました。早朝半眠でも、注意力を高めていれば、断面写真を持ち出してくることも無かったですな。
 恥のかきついでに1955年にノースロップ工科大学が編集したAIRCRAFT MAINTENANCE AND REPAIR(邦訳、1963年航空機の整備と修理法)から、航空機の木部接着剤について抜き出しておきます。昭和5年の日本海軍の仕様と較べてみてください。

 カゼイン接着剤とは : 牛乳や大豆等のたんぱく質にホルムアルデヒト(注)を作用させて作るカゼインに、石灰及びソーダ塩を加えたもので、航空機用には更に防腐剤やかびを防ぐための添加剤が入っている。
 接着の方法 : 強く加圧する硬質材の接着の場合には、カゼイン接着剤1に対し水を1.75の割合で混合する。水は温度16℃〜21℃で飲用水を使用しても構わない。粘い糊状になるまで攪拌し、約20分間放置し、落ち着いたら3〜5分間ゆっくりとかき混ぜる。
 硬質材を接着する場合は、150〜200p.s.iで加圧する。加圧の時間は、普通の条件下で少なくとも7時間、できれば1日又は2日位は加圧したまま保つ方がよい。

 そして、まるで「子ども向け模型工作」本に出てくるような懇切丁寧な図解があります。恐れ入りますね。
  

 ノースロップ工科大学とは、SBDドーントレスやT-38タロンなどで有名なノースロップ社が設けていた大学で、日本の航空再開後に官民の技術者が整備技術研修で渡米すると、必ずこの大学に入れられて板金から溶接にいたるまで理論と実際を学び、優秀な成績で整備士免許を取得し帰国していたそうです。いわば、戦後の空白を経てわが国の航空機整備の基礎固めが行われたのでした。
 本書は、ノースロップ工科大学で使われていた教科書でした。原書は1955年、日本語版は8年後の1963年日本航空整備協会により発行されました。
 日本語版の序で、航空幕僚監部技術部長の永盛義夫空将は「本書を基本にして、先進の諸国に追いつき、さらに追い越す時代が一日も早く到来することを祈る」と記しています。
 その祈りが短年月のうちに現実のものとなったことはご承知のとおりです。本書を完全消化して整備技術をより高めた先人たちに感謝するものです。    

(注) ホルムアルデヒトは、近年シック症候群などを引き起こすために、使用が厳しく制限されています。接着剤も合成系の普及により、カゼインそのものが無くなりつつあるのではないでしょうか。

 

     

 

 

 

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