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航空歴史館技術ノート

  

世界の傑作機 SBDドーントレスに書かれたプロペラの記述について

イガテック

 
 2020/12/25 

 世界の傑作機 SBDドーントレスの紹介でプロペラについての記述がありましたが早速意見を頂きましたので技術ノートに掲載して皆さんの意見を掲載させていただくことにしました。
 皆さんの意見をお待ちしております。


山内秀樹 執筆後記  一部抜粋 原文はSBDドーントレス リンク参照

 ・ 急降下時のプロペラピッチ  p.41に、岡部さんが急降下の手順で「プロペラのピッチを「低」にする」と誤って書かれておりますが、私はp.41に「高」と書いています。「高」にしないとプロペラ即ちエンジンが過回転するので・・・。
  ところが、或る方から「岡部さんのプロペラピッチ角についてですが、ワタシもこの点が気になりました。ただ、急降下時にピッチを浅くすると風車ブレーキ効果というものが働き機速を抑えられるそうです。木村秀政教授もそのようなことを書いておられます。 岡部さんは洋書をたくさん買い込んでパイロットの手記を参照しながら記述されているので、パイロットがそのように書いていたのだと思いますが、山内さんがお持ちのフライトマニュアルにはどのように書かれているのでしょう。ちなみにV-22オスプレイは固定翼モードから回転翼モードに変換する際、ピッチ角を浅くしてエアブレーキとして作用させるそうです。」
 また、他の方からは「急降下時のプロペラピッチの件ですが、プロペラを低ピッチにするとスピード・ブレーキとして大きな効果があります。(リバースの無いYS-11が着陸後0ピッチにするだけであれだけの減速効果がある様に・・・)過回転制御さえ出来れば低ピッチも有かなと思います。」等の指摘がありました。
  それに対する私の反論:
 「急降下時にプロペラを低ピッチとしブレーキとする理論は、昭和9年(1934年)に木村秀政先生が論文に書かれておられますが、その後の日・独・英・米いずれの急降下爆撃機を見回してもその理論を取り入れた機体は見当たりません。
  プロペラピッチをリバースではなくても、ピッチ角を低くして円盤抵抗として使用するのは古くはヴィッカース・ヴァイカウントやフォッカー・フレンドシップ旅客機が近所の伊丹空港で日常的に行っていましたし(あの音が懐かしい!)、その後、同じダートエンジンを装備したYS-11も同様に運用しておりました。そして今、US-2も着水・着陸時にそのような使用法をしています。確かに円盤抵抗は着陸速度以下の低速域では実用化されておりますが、水平最大速度より(ダイブフラップを開いていても)高速度になる急降下時に低ピッチを用いるのは、条件が異なり、下手をするとPROPELLER RUN-AWAY(プロペラの過回転・暴走)状況に陥るため、実用化されなかったのだと考えます。
  p.69〜70に書きました通り、手許にあるSBD各型のフライトマニュアルの急降下の手順には高ピッチでプロペラ回転数、即ちエンジン回転数を制御するよう指示されています。(1945年に初飛行し、ベトナム戦争1970年代まで使用されたダグラスAD/A-1スカイレイダーも急降下の手順としてプロペラを高ピッチにセットしてエンジン回転数を3,120rpm以下に保つよう指示されています。)
  P.24〜25に掲載しましたSBD各型諸元の表中にもあります通り、SBD-1〜3は可変ピッチ角19〜39°、SBD-4〜6は18.5〜48.5°であり、搭載エンジンの急降下時の最大回転数(許容回転数)がSBD-4までは2,900rpm、SBD-5が3,000rpm、SBD-6が3,100rpm(30秒制限)で、クランク軸とプロペラシャフトの減速比が16:11あるいは3:2で、エンジン破綻防止には、どうしても高ピッチで回転数を制御する必要があったようです。
  飛行中にプロペラをスピードブレーキ的に使用する実例はV-22を除いて見たことがありません。むしろ、多くのフライトマニュアルにはPROPELLER RUN-AWAY時の、つまりプロペラピッチが制御できなくなって回転数が上がった場合のEMERGENCY PROCEDUREが書かれています。エンジンの過回転でエンジンがお釈迦になっても多発機は何とか帰投できますが、プロペラの過回転により遠心力でプロペラブレードが飛散し、胴体を貫通・切断する可能性があり、適切に処置(故障プロペラ/エンジンの過回転速度以下で、なおかつVse=片発停止時飛行可能速度以上の速度を維持)しないと大事故につながります。(たしか、昔太平洋を横断飛行中のPAN AMのボーイング・ストラトクルーザーが、プロペラ過回転・脱落で胴体を損傷し、不時着水したことがあったと思います。多発機のプロペラ回転面の胴体部分には座席を配置せず、重要な機材もこの場所には配置しません。)


れあるさんからの意見 (2020/12/24)
1.風車状態のプロペラ
 エンジンを絞って急降下するとプロペラは前進速度による風圧で廻されスラストもトルクも負となります。
 負のスラストは風車ブレーキとなって全機抗力を増加させます。
 その増加は対気速度に比例します。
 負のトルクはプロペラの回転速度を増速します。
 こちらの増加も対気速度に比例し、ときにはエンジンを超過回転させます。

2.急降下時のプロペラピッチ
 Constant Speed Propeller(恒速プロペラ、定速プロペラ)を装備した飛行機で、
巡航状態から急降下を行うときの操作手順は次のようになります。
 @スロットルを手前一杯に引いてパワーを絞る。
 Aプロペラ・コントロール・レバーを前方一杯(高回転側)に押し込む。
 B操縦桿を押して急降下姿勢。

 この操作を行った場合のプロペラピッチ変化を「定速プロペラ概念図」を使って説明します。

 中くらいのプロペラ回転数と中くらいのエンジン出力で巡航している飛行機を急降下させるため、パイロットはスロットル・レバーを手前一杯に引いてパワーを絞ります。(操作@)エンジンのトルクが低下しプロペラ回転数は低下します。プロペラ調速器はプロペラ・コントロール・レバーから指示されている回転数を守るため、プロペラにピッチを下げる指示を出します。プロペラはプロペラ調速器の指示に従いピッチを下げます。しかしエンジントルクが低すぎプロペラ回転数は回復しません。プロペラピッチは最低ピッチに達してしまいます。

 次にパイロットは、風車ブレーキ効果を高めるためプロペラ・コントロール・レバーを前方一杯に押し込みます。(操作A)これはプロペラを制限回転数まで廻せという指示で、プロペラ調速器を経由しプロペラに伝わります。しかしプロペラはすでに最低ピッチとなっているため、プロペラピッチは変化せずプロペラ回転数の増加も生じません。

 急降下の準備が整ったところで、パイロットは操縦桿を押して飛行機を急降下姿勢に入れます。(操作B)飛行機は位置エネルギーを速度に変換し増速し始めます。飛行機の増速に伴いプロペラ回転数も増し始めます。

 この時点でプロペラ調速器は制限回転数でプロペラを廻せと指示を受けていますが、これは制限回転数を超えるなという指示でもあります。プロペラの回転数が制限回転数の達すると、プロペラはプロペラ調速器の指示に従いピッチを増して最大ピッチに達するまで超過回転を防ぎます。

 しかし、プロペラピッチが最大に達しても飛行機が加速し続けた場合、エンジンは超過回転してしまいます。

 資料 (クリックで拡大表示します)


 急降下飛行を目的とする飛行機は、エンジンの超過回転と機体の速度超過を避けるためにダイブブレーキを装備し、急降下飛行の終局速度を小さくしているのではないでしょうか。

プロペラのピッチが上記のように変化する仕組みについては、ネット上に多くの動画がアップされています。「constant speed propeller」でご検索ください。


雲編集部より
 編集部ではまだ本を入手していませんので持ち合わせの資料を紹介させていただきます。
 下記資料は PILOT’S HANDBOOK MODEL SBD-3 1942からの抜粋です。

 
 
 赤字の部分に 「全開位置に移動すると、ガバナはプロペラを正の高ピッチ位置にロックするように設定されます(クルージングに望ましく、急降下でエンジンの速度超過を想定する必要があります)」 と書かれていました。
 参考に下記がプロペラコントロールレバー位置です。
 

 エンジンの回転数はSBD-3の場合 2,350rpmで最大出力の1,000HPとなっていますが急降下の過回転を想定し下記のように2,900rpmが最大と書かれています。
 


 山内秀樹さんからの追加資料 (2020/12/29)

ダイブの操作 PILOT HANDBOOK SBD-5


 れあるさんからの追加資料 (2020/12/31)

急降下飛行 SBD-3の場合

 「PILOT’S HANDBOOK MODEL SBD-3 1942」から急降下飛行に関係するエンジン回転数を拾い出して一覧表を作成しました。

  BD-3 エンジン回転数一覧表 (図をクリックすると拡大します。)


 これにPILOT HANDBOOK SBD-5の「CHECK-OFF LIST FOR DIVING」を適用すると、急降下前のエンジン回転数は2050rpmとなります。このとき、プロペラ・コントロール・レバー位置はフル・アップ・ポジションとフル・ダウン・ポジションの間のどこか、プロペラ・ピッチは最低ピッチと最大ピッチの間のどこかとなります。

 このままスロットルを絞り急降下してもOKですが、いずれスロットルを開くときがやってきます。エンジン回転数2050rpmのままでスロットルを全開にできるのか。「PILOT’S HANDBOOK MODEL SBD-3 1942」の42ページに以下の記述があります。


その85ページがこちらです。(図をクリックすると拡大します。)


細かすぎるので左上の部分を拡大しました。


海面上〜2000フィートの間で、フル・スロットル、吸気圧41”HGに対応するエンジン回転数は2350rpmです。なので、急降下を終えてスロットルを全開にするのであれば、プロペラ・コントロール・レバーを前もってフル・ダウン・ポジション(HIGH R.P.M.)にしておく必要があります。

海面上で、エンジン回転数2050rpmに対応する吸気圧は、「PILOT’S HANDBOOK MODEL SBD-3 1942」のCRUISING SPEED CHARTから読み取れます。75〜80ページに6枚掲載されています。
これはそのうちの1枚です。文字がつぶれていて読み取れない部分が多いのですが、海面上、標準大気、エンジン回転数2050rpmに対応する吸気圧は概ね30”HGと読み取れます。(図をクリックすると拡大します。)