1-@ 掲載2010/06/18 にばさん
今年も梅雨入りしました。航空機の雨対策について、肩の凝らない話を‥
飛行機にワイパーがあるのを知らない方々もいるようですかが、最新型のB787にも立派なワイパーが付いています。
ただし、小生がボランティアで解説している航空科学博物館のDC−8フライトシミュレーターにはワイパーはありません。
シミュレーターだから省略したのではなく、実機にもワイパーは付いていません。エンジンのブリードエアで吹き飛ばしたと聞いています。ただ、これもどこで聞いたか、読んだか明確ではありませんがワイパーが必要な着陸時に、エンジンはパワーを絞るためブリードエアが減少して、ワイパーに代わる十分な機能を果たせなかったかもしれません。
ワイパー以外に豪雨時に視界を保つ、レインリペラントというものがB727で採用され、ガラス面にウインドウォシャーのように霧状にかけ、水滴を細かくして吹き飛ばすものです。最近は車のフロントグラスに塗布する似たようなものが販売されています。
レインリペラントはガラス面が雨でぬれている時に噴霧するよう指示されてましたが、慣れない乗員がウインドウォシャーと間違えて、噴霧して、べとべとの液体の除去作業をさせられたライン整備の人もいたようです。
B737からYS−11の機長になる人もいて、乗員の要求で、着陸速度の遅いYS−11やヴァイカウントにも社内改修で装備することになりました。
特にヴァイカウントはソレノイドバルブから噴霧口までに5、6cmのパイプがあり、この中に残留した液がかたまり、しばしば詰まるという不具合がありました。これは退役するまで改善されなかったと記憶します。
以上梅雨時の雨の話題ということでした。
1-A 致命的な欠陥 DC-8のレイン
リムーバル (その1) 1-2
1987/09/15日本航空発行 JALパイロット特別編集「DC-8
FOREEVER」DC-8の本から (提供OKUBO)
RAIN
REMOVAL
航空機の風防(われわれがウインドシールドと呼んでいる、自動車ではフロントガラスに相当する個所)に雨が当たったときにパイロットの視界は妨げられないのだろうか?
エアラインの大型ジェット機は計器飛行ができるので、飛行の大部分の過程において外を見なくても操縦を続けることは可能である。しかし現在でも、離陸と着陸 の段階ではパイロット滑走路を見ながら操縦している。したがって、風防に雨が当たるときは除去する手段が必要になってくる。
この役目を果たすのが自動車と同じワイパーである。おおかたの人は「なーんだ」と思われるかもしれないが、少なくとも私が知っている限りの旅客機ではこのワイパー以外の装置をつけているのはDC一8だけである。
このワイパー以外の装置が「レインリムーバル」というものだ。
概要を説明すると、高圧の圧縮空気を風防に沿って吹き出させ、空気のカーテンを作ることによって雨滴や雪を吹き飛ばそうとする装置といえる。そのアイデアは斬新ですばらしかったのだが、いざ実用化してみるといろいろな問題点(欠点)が出てきた。
まず、肝心の高圧空気をエンジン内部からとっているのでエンジン出力を絞ったときに空気の圧力も低下し効果が著しく損なわれる(ほとんど役に立たないと言ったほうがよいかも)。したがってエンジン出力を絞る、着陸の最も大切なところで使えなくなってしまう。
この欠点は致命的なもので、以後の新しいジェット機もずペてワイパーを採用していることからもわかる。
次に大きな問題はその音が相当にうるさいこと。ワイパーもかなりな騒音だがそれ以上のものである。
というわけでこれを改良しようという提案も種々なされたが、費用の問題と退役も近いという理由で結局実現には至らなかった。DC−8のパイロットは横風のときだけでなく雨や雪のときも大変苦労しているのである。 (P−149期 泉 孝弘)
致命的な欠陥 DC-8のレイン
リムーバル (その2)
DC-8の風防雨滴対策装置について、田口美喜夫著「機長の一万日」1998年講談社刊に、恐怖の体験が載っています。
暴風雨のため、羽田Bランに横風限度一杯の中を北から進入するよう指示を受けたので、木更津からのコースを計器飛行で旋回し滑走路に正対し、いざ着陸しようとしたら滝のような雨で前が殆ど見えなくなったというのです。流れる雨水のわずかな隙間から前を凝視して無事着地はできました。操縦で最も緊張する場面での目への全神経の集中という余分なロードワークです。
また、接地後まっすぐ走っているつもりで、ふと横の窓から滑走路灯を確認するとそれが次第に遠く離れていく、つまり滑走路を離脱しつつあるのです。驚いて方向舵を一杯に曲げても、地上ではそれほど効かず、とっさに顔面蒼白の副操縦士にエルロンを左一杯に切るように命じて、なんとか立て直すことができたといいます。すごい判断ですね。
更に続きがあって、土砂降りで走路に水がたまり、いわゆるハイドロブレ―ン現象のためにブレーキが効かず減速不能になったのです。管制塔が指示するタキシーウエイへの曲がりを次々に通り越して、遂にはオーバーラン→多摩川へ飛び込みを覚悟した時に、とっさの機転でフットバーを離し、すぐに踏み込んだら効いてきたというのです。最後のB1で辛うじてタキシーウエイへ曲がりましたが、これもすごい判断でした。
ここの記述は自慢話のようにもなりますが、読んでいて手に汗握る場面であり、一瞬のミス、一瞬の遅れがあったら大きな事故を招いていたに違いなく、旅客機パイロットになるために生まれてきた田口さんの沈着な操縦に拍手を送りたくなります。同時に、豪雨時に前が見えなくなる欠陥が放置されたままのDC-8対策に誰も手をうっていない航空界の七不思議のひとつを裏付けるものとして、記憶にとどめておきましょう。
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1-B 欠陥にあらず 快適に作動していた説 2010/07/30 AHboy 3
以前、私の会社でもDC-8を数機使っていて、当時飛ばしていた同僚に聞きましたら、ブリード・エアで雨粒を吹き飛ばすシステムは低速、地上両方共に非常に良く効いて、離陸重量性能のペナルティーも無く、全く問題はなかったと皆、口を揃えて言っていました。
その内の2機は新型スネクマ製のCFM56エンジンに改装した長胴型で、其方も効率良く雨玉を吹き飛ばしてくれたとのこと、ただしシューと言う音が耳障りだと言っていました。
1-C Uボートが採用していた空気噴出装置 2010/08/03 かつお 1-4
DC-8のレインリムーバルと称する装置は大変興味深い装置です。JALのパイロットは殆ど効果が無かったと言う一方で
、別の航空会社では「快適」と、この全く相反する違いは何でしょうか? 全く門外漢ながら一般的往復式ワイパーより遥かに効果的と
思うのですが、そのワケは次の通りです。
実はこの「抽出空気噴出装置」に原理的には殆ど同じものが、意外
にもドイツの潜水艦Uボートの艦橋に装備されていたのです。
艦橋の上端によだれ掛けのように巻かれているのが、動力なしで自然向かい風を巧妙に利用した装置です。これで限定範囲とはいえ露天艦橋に「無風
地帯」を作り出すというものです。
図のように、Bの風は装置の先端で絞られて勢いを増し、斜め前へ噴出るので、Aの風と合成するという理屈です。
簡単な装置ながら綿密な配慮が見られます。向かい風とは言え飛行機のそれとは比較にならない低風速で、その効果に関する詳細データはありませんが、1938年以降の建造艦の殆どに見られ
ます。
私は、1943年夏、呉に入港したU511(後に日本海軍に入籍
してロ500となる)でこれを目撃しています。日本海軍も、さっそく取り入れて後に海底空母と言われた「イ400型」ほか「イ300代」(丁型)に広く採用
しました。
以上のことからDC-8のレインリムーバルも、私は「快適」
説に立ちます。潜水艦は取り込んだ空気(風)を絞り込んだ口から吹き出しますが、それとは比較にならない高速で風を切っている飛行機なら、エンジンからエアを抽出しなくたって、ラム圧だけでも前面ガラスの雨滴を排除するだけのエアカーテンができるのではないかと‥‥
ラム圧利用もしくはエンジンからの抽出空気併用のレインリムーバルを考案する人はいませんか。以上、アナログ人間の戯言でした。
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1-D 2010/06/19 PAPPY p
確かにDC-8にはワイパーは見当たりませんね、面白い話でした。機首アップの映像が有りましたので送ります。69年頃の撮影と思いますがDC-8-32
SAS Scandinavian Airline System SE-DBAです。
元写真
2010/06/21 YS45
撮影1979年 東京国際空港 日本航空 DC-8-61 JA8059
拡大 風防雨滴分散用空気導管 (この訳語は週刊エアクラフト40の解剖図による)
2010/06/21 戸田保紀
撮影1966/11/01 東京国際空港 日本航空 DC-8-50 JA8015 Seto
撮影1969/08/20 東京国際空港 日本航空 DC-8-50 JA8019 Aso
コンベアCV990にもワイパーがないみたいです
撮影1969/04/08 東京国際空港 スイス航空 コンベアCV990
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1-E 後日談 2010/08/03 にばさん 1-6
ボランティアをしている航空科学博物館で面白い体験をしました。DC-8フライトシミュレーターの解説が終わり、乗客が全員降機してドアを閉めようとしたとき、70歳くらいの男性が中だけ見せてもらえないかということで、お見せしました。
写真を撮っているようですが、私の帰りのバスの時間が気になり、操縦席に行くと「ワイパーはないのですか?」との問われ、エンジンのブリードエアで吹き飛ばしていると説明。どうしてワイパーかと聞いてみたら、なんと佐伯さんという人がやっているHPで最近話題になっているということでした。
思わず実は発端は小生が・・・と、のど元まで出かかったのですが、ぐっと押さえて、用事があり時間がないのでということでお引取り願いました。その方とはもう少しお話したかったのですが失礼しました。まさか自分のメールが元で、わざわざシミュレーターを確かめにこられるとは思いませんでした。
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