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航空歴史館技術ノート

  
  
航空機のヨー ストリンガーについて 

 


 川崎製のT-33A練習機に、偏揺れ指示糸(YAW INDICATOR)の注意表示があったことから始まったヨーストリンガーの問題に関して、この計測糸がF-4、F-14にも取り付けられていたことがわかりました。

 ジェット戦闘機においては、射撃時に機体が滑ると弾道が外れるので、ラダー・トリムで旋回計のボールを中心に据え(滑っていない意味)、かつ直視で「糸」が機体中心線に流れていることを確認して撃つそうです。

 以下、民間の農薬散布ヘリコプターの参考例などもあわせて写真を紹介します。これ以外の航空機についてもヨー ストリンガーの例があれば、写真を提供してください。

 なお、偏揺れ指示糸・YAW STRINGER・YAW INDICATORなど名称が分かれていますが、便宜上、グライダー界で用いられているヨー ストリンガーに統一しておきます。
 
G07 グライダーのヨーストリンガーなどの計器 参照)
 


目次

 

@  航空自衛隊T-33Aのヨー ストリンガー

A マクダネルF-4のヨー ストリンガー

B グラマンF-14のヨー ストリンガー

C 三菱F-1のヨーストリンガー

D  ロッキードF-104Jのヨーストリンガー

参考1 AV-8Bハリアーのヨー検知装置

参考2 PS-1、US-1Aのヨー検知装置 

参考3 民間機のヨー ストリンガー

参考4 曲技機のストリンガー

 

 

@ ロッキードT-33Aのヨー ストリンガー (偏揺れ指示糸 YAW INDICATOR)

ア かかみがはら航空宇宙科学博物館のT-33A改 61-5221 

撮影TADY BEAR


 

・ 偏揺れ指示糸を実際に取り付けてみました 











以下撮影印 かかみがはら航空宇宙科学博物館支援ボランティア 小山澄人

■ 機体表面 白線の左がキャノピー方向

■ 裏側 止めの結び目をつくって穴に通します

 

    ・ 偏揺れ指示糸の取り付けについて 予備三曹   door

 ストリンガーの交換は簡単で、ガンベイの内側から紐をフレキシブルのピンセットでつまんで引き抜くだけで、取り付けは、その逆の手順で、開いてる小さな穴から機体の外にストリンガーを出して、引っ張るだけです。
 ヨーストリングの穴の位置は、ドアの前端から10センチほど後ろに紐が通る直径2mmほどの穴が開いていました。

 あらかじめ、機体の内側に来るストリンガーの端を、玉状に結んでおくのが機体からストリンガーが外れない原始的な装着方法でした。ガンベイ自体は与圧されないのと、飛行中にジャンボに追い抜かれる程の低速な33ですから、こんな方法でも大丈夫なのです。ストリンガーの機体に出る側の紐の端も、控え室などでライターであぶって紐の繊維を焼いて置くのも忘れてはならない事でした。そうしないと、低速な33でも直ぐに紐がほぐれて、先がボロボロになってしまいます。

 機銃の名残は、下側にボルトで留められた鉛のバラストだけでした。
  
 余談ですが、クロスカントリー時に、パイロットはこの少ないスペースに制服や私服など二人分の荷物を詰め込んで行きました。百里から帰った機体のガンベイに土産のピーナッツの袋が入っており、与圧されないので、上空で袋が破裂して、列線でガンベイを開けた先輩がピーナッツのシャワーを浴びた笑い話も残っています。

■ ガンベイの中

 ガンベイドア内側 予備の 偏揺れ指示糸の収納袋



■ スペアの偏揺れ指示糸収納袋を取り出すところ  RESIN LENSEは見当たりません 

■ 取り出した糸は2本でした 川崎でのIRAN後納入時には10本収納とのこと 

・ RESIN LENSE(樹脂レンズ)は、ガンカメラを保護する機体側の予備レンズと推定されますが、空自はガンカメラを装備していなかったようなので、ロッキードのステンシル指示がそのまま残っていたものと思われます。

参考 ■ 右側エアインテークのガンカメラ穴



 


イ 浜松広報館の71-5239 撮影TADY BEAR

ウ 入間基地の51-5620

現役時 撮影 予備三曹



T-33A退役式(2000/06/29)における51-5620 撮影2003/08 
 O.C.C 日本語、英語表記とも残っています

元写真


入間基地に展示後 撮影2004/11/03 予備三曹 

 

 

A マクダネルF-4のヨー ストリンガー 

ア F-4EJ改 37-8312 2008/09/07 三沢航空祭 F-4 FINAL YEAR 特別塗装機

撮影にがうり 

バルカン砲関連のエアスクープとは、弾倉の硝煙排出補助エアの取入口で、ヨー ストリンガーの紐がここにからまることがあったそうでうす。(文字入れ 佐伯)

元写真



 

イ ヨー ストリンガーが風でエアスクープに絡まっている例 
     F-4EJ改 37-8319 1980/08/03 小松基地 撮影横川裕一 

   世界の傑作機 82 F-4ファントムU輸出型 の記述から

 上面に出ているエアスクープは、機関砲スカビンジ・ドア。弾薬装填室の硝煙を排気するためのもので、駐機中は通気のため開いたままになっており、エンジンを始動すると自動的に閉じる。射撃時にはトリガーと連動して開閉する。

ウ F-4EJ 第305飛行隊 77-8392 (後にRF-4EJ改 77-6392)


航空ファン108 自衛隊航空機ALL CATALOG Illustratedの<F-4EJ/EJ改>より (転載許可済み)

元写真

エ RF-4EJ改 第501飛行隊 77-6397 撮影 O.C.C


元写真


オ RF-4E改 第501飛行隊 57-6914 撮影2006/07/30 百里基地 GDIGALANT

機軸よりもやや左に振れているか

元写真

 カ RF-4E改 第501飛行隊 撮影2010/07/24 百里基地 にがうり 




 





キ その他明瞭に判別できる写真の例 (佐伯)

2010年10月(?)刊 イカロスMOOK 自衛隊の名機シリーズ 航空自衛隊F-4 改訂版

p38、p41、p47


日替わりメモから転記

 航空情報302 1972年6月号臨時増刊ファントムに、次の図面を見つけました。転載許可済み

 砲室スキャベンジドアというのがエアスクープだと思うのですが、本文の中に説明はありません。これがトリガーに連動して開いたり閉じたりするとは、この図面からはとても想像できませんね。

 F-4の整備をしていたN.P.C.さんによりますと、AHS(F-4の給弾用シュートを含めたバルカン砲システム)を降ろして中に入ると、てっぺんにこにのエアスクープの口が開いているそうです。駐機中には油圧と電源オフで開いています。ヨーストリンガーは、よく覚えていないが、普通の紐であり、無くなれば新しいのを貼り付ける程度のことではなかったかということです。

 

 

B グラマンF-14のヨー ストリンガー 14

ア 撮影 O.C.C


元写真

イ その他明瞭に判別できる写真の例 (佐伯)

航空ジャーナル 1982年7月号 F-14 TOMCAT & NAS Miramaer 徳永克彦氏のカラー写真

ウ 映画「ファイナル・カウントダウン」 (航空科学博物館ボランティアのクマさん)

1980年の映画「ファイナル・カウントダウン」ではF-14トムキャットに取り付けられたヨー・ストリンガーの動きが確認できます。CGなど無い時代の映画ですからすべて実写です。零戦は"CAF"ことコンフェデレート・エアフォースの機体(但しT-6の改造機)また空撮はB-25で行ったことがエンドロールで確認できます。

 昨年廉価版のDVDが再発売されたばかりなので、ツタヤ等でレンタルできるはずです。

 


 
 
C 三菱F-1のヨーストリンガー   F-1

 

  航空ジャーナル1981年1月号臨時増刊「三菱T-2とF-1」の中にクローズアップF-1として、ヨーストリンガーの写真があります。(著作権をお持ちの方は連絡してください)


 アンダーラインの部分にあるように、現地部隊で付けたものですが、全部隊が応用していたのかどうかは分かりません。


    その他下記の雑誌写真で確認できます GUNDAMZAKさんの調査による

@ イカロス社 J-wings自衛隊の名機シリーズ4 T-2F-1
  p63右下のF-1写真(F-1#80-8220=三沢8飛行隊)の機首にはっきり見えます。
  p44
左下のT-2写真(T-2#49-5186=三沢3飛行隊)の機首にはっきり見えます。
 
A航空情報20102月号のF-1特集 B文林堂 航空ファン別冊 航空自衛隊1985の中にもヨーストリンガーまたは白線らしきものが見える写真があります。
 
 
 ヨーストリンガーが付いてる機体は各時期に存在していますが、これらから推定すると、新人パイロットの機体、あるいは低空訓練が多い時期だけに付けるのではないかと思います。

 

 
 
 D ロッキードF-104Jのヨーストリンガー    104
 

 76-8700 第207飛行隊 撮影1972 A-330 




46-8602 第206飛行隊 百里基地 撮影1972 A-330 


 

参考1 AV-8Bハリアーのヨー検知装置   

ハリアーの機首

AV-8B 165574 VMA311 WL-54 撮影2005/07/17 防府北基地

拡大


AV-8B 163968 VMA311 WL-51 (ナイトハリアー) 撮影2005/07/17 防府北基地   

 

参考2 PS-1とUS-1Aのヨー検知装置   

新明和PS-1の機首

PS-1 5814 撮影1980/08/03 岩国航空基地

 「かんざし」についてはR113参照

新明和US-1Aの機首

US-1A 9089 撮影2009/10/04 岩国航空基地   

 


参考3 民間機のヨー ストリンガー 

アエロスパシアルAS350B JA9801 (薬散時) 撮影2003/08  O.C.C 

 
元写真

 


参考4 曲技機のストリンガー    参考4

アクロバット飛行の機体にもストリンガー  大石治夫さんからメール

 アクロバット飛行を行う機体で主翼の先端から紐などを引いてますが、あれも機体の横滑り状態などを感知するために使われているのではないでしょうか?

 以前、熊本県のNPO飛行チーム、スーパーウィングスに同行して航空際に参加した際に、曲技飛行を行う機体の両翼端に募金活動で使用する赤い羽根を貼り付けていたので、パイロットに理由を聞いてみたとろころ、機体の横滑り具合を知るためだとのことでした。

佐伯から : 室谷義秀パイロットのスホーイの写真を探してみたら、やはり、翼端に赤い紐をつけていました。重要な計器なのですね。

 矢印状の針金は、曲技中に地上の目標物から機体の位置を確認するためのものだったと記憶します。(撮影2002/12/12 広島西飛行場) 

 


 

 


曲技機のストリンガーは速度表示です  HSC-M


 アクロバット飛行を行う機体では主翼の先端から紐などを引いていますが、あれは、機体の横滑り状態などの感知のためのものではなく、速度を見るためのものです。

 例えば、垂直上昇から、テールスライド(後退飛行)へ移行するような場合は、前進速度が減少し、ゼロになって、それから後ろへ落下するのですが、そのような場面では対気速度計は役に立ちません。翼端の気流糸を見て、速度を確認する必要があります。

 その気流糸が、後ろに向いていれば前進、フラフラなら、速度ほぼゼロ、逆に、前に向いたら、後退という訳です。

 前向きの飛行と後退飛行では、舵の操作が反対になりますから、速度の確認は極めて重要なのです。

 熊本のNPO飛行チーム、スーパーウィングスのFA200も、アクロバット飛行展示を行う時は、写真のように、左翼端の航法灯の上の、パイロットから真横に見える位置に、小さな気流糸をつけています。これを見て、機体が後退飛行の領域に入らないようにするためのものです。
   FA-200 JA3704 筆者撮影